48.お礼も
「お詫びって・・・、何言ってんの?」
「だって・・・」
俯く真理を高田が呆れたように見つめた。
「だからさ、中井さんのせいじゃないって。ってかさ、本当にどれだけ自信家なんだよ?」
「はい?」
「なんか、中井さんのために成績が落ちたなんて思われるのはかなり癪なんだけど」
「・・・」
「自信過剰だって。勘弁してくれる? まったく・・・」
「・・・」
高田の軽蔑じみた冷たく乾いた言葉に、真理は目が段々細くなってきた。
ジトっと高田を見上げると、挑むように腕を組んだ。
「あー、そうか、そうか。実力か? あれが?」
「は?」
「いやいや、何だ、そうか、悪かったわね。高く評価し過ぎちゃって」
「・・・」
「なんだぁ、きっと、もともとあの成績表には入らなかったのね~。もう、てっきり、私のせいかと・・・」
真理は肩を窄めて残念そうに首を振った。
「私に割いていた時間がちゃんと自分の時間として使えたら、せめて3番には入れてたと思ったんだけど・・・。そんなことなかったかもね」
「・・・おい」
「うん、実力よ、実力。今の高田君の実力があの結果なのよ!」
「・・・ちょっと」
「そして私の結果も、私の実力!」
「・・・調子に乗るなよ。中井さんは確実に違うだろ」
「いいえ、実力よ、私の! ふふふ~、成績上がるって気分がいいものね! あ、ごめんなさい、下がった人の前で」
真理はワザとらしく両手で口元を押さえた。
そしてニヤリと笑うと、
「じゃ、おやすみなさい! 良い夢を! 無理だと思うけど」
くるっと向きを変えて去って行こうとする真理の腕を、高田がグッと掴んだ。
「何よっ!?」
真理は振り向くとムッとしたように高田を見上げた。
「やっぱり止めた」
高田もムッとした顔で真理を睨みつけた。
「やっぱり『お詫び』してもうらうよ。あと『お礼』も」
「お礼・・・?」
「ああ。俺の成績が下がった『お詫び』と、中井さんの成績が上がった『お礼』」
「・・・だから、それは実力・・・」
「違うから。中井さんの成績アップは俺のお陰だから。確実に。間違いなく」
「・・・」
「そうだな。せっかくのご提案だから、じっくり考えさせてもらうよ。その『お詫び』と『お礼』をどうしてもらうか」
そう言うと、高田はそっと真理の腕を放し、ニヤッと意地悪そうに笑った。
「いや・・・、『お礼』とやらは余計では・・・?」
「じゃあ、おやすみ。良い夢を」
呆けた真理の顔の前でパタンとドアが閉まった。
★
週末の土曜日の朝、真理は早く目が覚めた。時計を見るとまだ6時前だ。
今日はとうとう高田家を去る日だ。
午前中に、真理の両親が高田家に迎えに来るはずだ。
「あっという間だったな・・・。2ヶ月なんて・・・」
最初はどうなる事かと思った。
とにかく、無事に2ヶ月が過ぎ去ってくれることを願い、地味に過ごすことを心がけていたが、いつの間にか高田家に馴染み、地味どころか派手に、台所でもリビングでも過ごしていた気がする。
「感謝しかないな・・・。高田家の皆様には」
真理はそう呟くと、もう一度布団に潜り込んだ。
まだ、ここでの日々を終わらせたくない。朝を迎えたくない・・・。
そんな思いで目を閉じた。
しかし、二度寝とはどうしてこんなにも危険なのだろう。
気が付くと9時はとうに回っており、10時近いではないか。
「やばっ! 寝過ぎた!」
昼前には両親が迎えに来る予定だ。
なのに、まだ帰る準備など何もしていない。
「やばい! やばい! 時間ない!」
真理はベッドから飛び起きると、急いで服に着替えて、一階に下りて行った。
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