45.勉強
翌日も、そしてその翌日も、高田は真理の勉強を見てくれた。
見返りはコーヒー。
そして時間帯は深夜。
高田の両親に親しくしているところを見られないためだ。
真理がこの行動に背徳感を覚えなかったはずはない。
高田の両親に対して。そして、なにより、彼女になったばかりの花沢に対して。
だが、高田が提案してきたこの勉強会を、真理は断る気になれなかった。
実際に苦手な数学も英語もは大ピンチだった。
高田に教えてもらうことで、どれだけ助かったことか。
それに、このテストが終わったら、高田との時間も無くなるのだ。
そうだ! 使えるものを使って何が悪い。
最後にとことん利用させてもらおう!
勉強会を断らない理由はそれだけだ。
他の理由にはすべて目を閉じた。
そして、この勉強会はテスト期間に入っても続いた。
高田は自分の勉強の傍ら、真理の質問にはペンを止めて聞いてくれた。
どんなに背徳感を覚えても、真理にとって、この時間は誰にも譲れないものになっていた。
★
テストが終わり、結果が生徒たちの手元に配られた。
「わーん、下がっちゃったぁ!」
奈菜が、順位表を見ながら梨沙子に縋りついた。
「梨沙子ちゃんは?」
「私もちょっと下がっちゃったわ・・・」
梨沙子は軽く肩を落とすと、順位表を奈菜に見せた。
「さすが、梨沙子ちゃんねー、下がったって言っても55番か~」
「50番以内はキープしたかったのに・・・。今回、数Ⅱが難しかったわ・・・」
「私なんかチンプンカンプンですけど~」
そんなお喋りしている二人の横で、真理は配られた成績表をフルフルと震える手で凝視していた。
「・・・どうしたの? 真理・・・?」
「真理ちゃん、大丈夫・・・?」
二人が心配そうに真理を覗き込んだ。
「・・・そんなに下がったの?」
「真理ちゃん! 気を落とさないで!」
真理はバッと顔を上げて、二人を見た。
呆然とした顔でフルフルと首を振り、二人の前に順位表を広げた。
『98』
「わー! すごい、真理ちゃん! めっちゃ上がってる!」
「100番以内に入ったって初めてじゃない? すごいじゃない!!」
親友二人は手を叩いて、惜しみなく賛美を贈ってくれた。
真理はまだ信じられないような顔で、もう一度順位表を見た。
「98・・・。過去最高・・・」
真理は小さく呟いた。
確かに、今回は手ごたえがあった。心配していた数学も英語もいつもより点数が良かった。
これもすべて勉強を見てくれた高田のお陰だ。
「ちょっと、真理! 私たち二人とも下がってるのに、一人だけ上がっちゃって~! 羨ましいから、なんか奢って!」
「下がっても梨沙子ちゃんが一番なくせに~。でも、ホント、ホント! 何か甘いもの食べて帰ろうよ!」
キャッキャと盛り上がる二人の横で、真理はじっと順位表を見ていた。
「・・・? 真理、どうしたの?」
何も言わない真理を不思議に思い、梨沙子が首を傾げた。
その言葉に真理はハッと我に返り、
「そ、そうだね! ファミレス行こう! パフェ食べよ! 奢らないけど」
顔を上げて慌ててそう言うと、立ち上がり、
「でも、ちょっと用事があるから、待ってて!」
二人を残し、教室から飛び出した。
★
(高田君はどうだったろう?)
真理はそんな疑問を抱きながら廊下を急いだ。
自分の成績が上がったのは喜ばしい。
だが、自分のために時間を割いてくれた高田はどうだったろう?
真理の成績と反比例するように下がっていたらどうしよう?
一抹の不安が心を過る。
(確か、特進科は特進科で成績上位者が貼り出されるはず!)
真理は特進科の棟に向かって走っていた。
途中、職員室近くに来ると、廊下で都を見つけた。
「あ、都ちゃん?」
都は驚いたように振り向いたが、真理と分かるとにっこりと笑った。
「都ちゃん、もしかして特進科に行くの?」
都が向かっている方向の先は特進科の棟に続いている。
「うん! 特進科の多目的ホールに3位までの名前が貼り出されるのよ。和人君の名前があるか見に行くの!」
都は大きく頷いて、嬉しそうに答えた。
「和人君の名前は絶対あるもの。いつも写真に撮ってるのよ!」
「・・・そうなんだ」
そこまでする都に対し、若干引きつつも、はっきりと自分の気持ちを意思表示する彼女を羨まく、そして妬ましく思った。
「じゃあね、真理ちゃん。またね」
都は真理に手を振ると、特進科の棟に向かって歩き出した。
真理は慌てて都を追いかけ、隣に並んだ。
「私も行く! 上位3名って気になるし!」
都はパッと顔をほころばせた。
「ホント? 真理ちゃん? 特進科って一人で行くのって少し勇気がいるのよね! 一緒に行ってくれると嬉しい!」
フフッと可愛らしく笑うと、真理の腕に自分の腕を絡ませた。
そして二人で並んで特進科の棟に入って行った。
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