突然目の前に現れたのは――ふっさふさのデッケェぬいぐるみ。


 ア。


 アアアアアアアア!! すっごい勢いだけで添い寝も難しそうなアイテム渡しちゃったよぉ!! 彼にそういう趣味もないのに……!

 どどど、どうしよう。ぬいぐるみの腹で口と鼻を覆って気絶させて無理矢理寝かすか? それともうなじを「トンッ」ってやるか?


 やるか??


 暗黒の表情で画面の中に入り半殺しの準備を始めたところで髭の様子が少し変化したことに気付く。


 懐かしそうな表情でくまのぬいぐるみに触れていたのだ。


 あ、あれ?

 予想とは違う反応。

「えへへ……よく分かりましたね、本当は僕が可愛いもの好きだってこと」

《え、え!?》

 照れ笑い(可愛い)しながら髭が言う。

 あれ!? 美人でスタイルの良いお姉さんとかそういうのがシュミかと思ってたが!?

 え!? 可愛い。


「実はweb会議の時に背景に映りこんじゃったぬいぐるみを今の直属の上司に滅茶滅茶笑われちゃって」

《――は?》

「仕事も出来ないのにそういうの集める金はあるんだって。女みてぇでクソ恥ずかしいとか言われて……へへ。情けない話ですけど」

《ハァ!?》

「それで全部捨てちゃわなきゃって焦ったんです。でも捨てられなくって……クローゼットの奥に押し込みました。ゴミ袋に入れたままの窮屈な姿で」


「でも、やっぱりぬいぐるみって良いですよね。何だか懐かしさとか情愛とか込み上げてきました」

 私の胸の奥からは明らかな殺意が込み上げてきました。




 ――その時ふと頭に浮かんできたのはもう一つの解決の可能性。




 そこで「概念」が遂に至近距離にまで迫ってきた。

 その息が苦しくなるような重圧が余計苛立ちを掻き立てる。


「ここまできたらもう逃げられませんから、取り敢えず狂信者さんの言う通りこの『概念』が通り過ぎるのを大人しく待つことにします」

《……そうですか》

「ええ。この子のおかげで何だか精神的な余裕が出てきたような気がします。やっぱり部屋には堂々と置けないけれど……それでもこの事は絶対に忘れません」

 ……。


「最初は何て言うか、疑っちゃってすみません」


「実はって分かってます。でも、だからこそ言わせてください」


「私のこと、短い間でも大事にしてくれてありがとうございました」


 そこで遂に体力の限界が来たのか、髭はすうっと目を閉じてしまった。

 でも自分は知っている。


 


 キッと、自分達を飲み込もうとする「概念」に向けて睨みをきかせた。




▶これから自分がするべきことは。


*天誅      →10

*おやすみの挨拶 →18


・邪悪な「悪魔」の概念、こちらまであと――0m。

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