第17話華音VS元グリーンベレー(3)

「一人終わり!」

「次は?」

華音は、泡を吹いて白目までむいている元グリーンベレー(ブラジリアン柔術)を見ることもしない。


見ていた沢田史裕は、華音の一撃のすさまじさに、ガタガタと震えながらも、誰も華音の「フライングのような攻撃」を責めないことが、不思議だった。

「華音君、滅茶苦茶に強い、ということは文美から聞いていたけれど」

「少し・・・ルール違反では?」


エレーナが、首を横に振った。

「あれは、ブラジリアンの油断のし過ぎ」

「華音君は、真剣勝負、つまり命の取り合いの練習を望んでいた」

「だから、床のフローリングに文句をつけた」

「実際の戦闘は、コンクリートとか。アスファルトの地面で戦う場面の方が多い」

「それを、コンクリートでないと、タックルした時にリスクがある、なんて腑抜けたことを言うものだから」


春香も、同じ意見

「華音は常在戦場って言いたかったの」

「戦う直前にグチャグチャ言うから、少し怒ったかもね」

「本番とか、実際の戦闘の時に、そんなことは言ってはいられないよ、と」

「でも、殺さない程度に蹴っている」

「ただ・・・一週間は入院かな」

「お仕置きだよ、華音の」


シルビアは、華音が以前言っていたことを思い出した。

「華音ね、ブラジリアン柔術が嫌いなの」

「試合に条件を付け過ぎるとか、しかも自分たちにだけ有利なようにとか」

「すぐに地面に寝たがるから、決着が遅い」

「寝転んで、グチャグチャしている間に、鉄砲や刀でやられてしまうって」


沢田文美は雨宮瞳の顔を見た。

「ねえ、瞳ちゃん、華音君、本気で怒っているの?」


雨宮瞳は、少し笑った。

「そんなことないよ、相手が二人とも、実は華音君には弱過ぎるみたい」

「だからブラジリアンにも、本気の蹴りでない」

「ボクシングは、もう、どう手加減するか。決めた・・・みたい」



さて、道場の中央では、元グリーンベレーでボクシングのチャンピオンが、華音の前に立った。(既に構えを取っている、ブラジリアンの恐ろしい結果を受けてのことらしい)


潮崎師匠が、二人の中央に立ち、「始めるか?」と、つぶやいた。


次の瞬間だった。


「ギャッ!」


野太い声が、悲鳴が、道場に響き渡った。


エレーナの身体が、震えた。

「あれは・・・映画で見ただけで・・・マジ?」


沢田史裕の声が震えている。

「華音君の右の人差し指が、相手の左拳に触れているだけで?」

「相手は、全身が硬直して、横たわって?」


「審判役」だった潮崎師匠は、「ヤレヤレ」と言った顔。


「変わった技を使うなあ」

「この元チャンプのメチャクチャに速い左ジャブに合わせたのか」

「ベアナックルだから点欠を?それを突いたのか?」

「胸筋が震えているから、点欠から心臓を狙ったのか?」


華音は、フンと、潮崎師匠を笑う。

「その一歩手前にしたよ」

「この人、薬飲みすぎ、プロテインも」

「だから、その点欠を使うと即死」

「それは嫌だから、弱めの点欠を突いた」

「でも、薬飲み過ぎだから、こうなると思ってはいた」


柳生隆も道場の中央に立った。

「華音の練習にもならないな、一対一だと」

「だから、二人同時って言ったのか?」


華音は、一旦頷いて、すぐに首を横に振る。

「それもあるけれど、実際は格闘の猛者よりは、凶器とか爆弾相手の対策のほうがいいかなと」

「だから、サッサと終わらせたかった」


そこまで言って、華音は柳生清の顔を見た。

「銀座支店と永田町支店の監視はどうなっています?」

「史裕さんみたいなことが、二度と起きないように」


柳生清が頷くと、華音は、厳しい顔で、道場を後にした。

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