071 「二度目の夢枕(2)」

 私の夢の中で、私の体の主による、体の主が体験した日中戦争と太平洋戦争がダイジェストで、しかも体の主の主観が入った形で語られていった。

 そうは言っても、話している体の主は軍事に詳しくない一般人だから、主観的だったり曖昧だったりする事が多い。


 一方の私も、ゼロじゃない程度に軍事知識はあるけど軍オタじゃない。軍オタに「ちょっと詳しい」とか言ったら、一斉に叩かれる程度の知識しかない。

 受験勉強の知識以外だと、刀剣擬人化ゲームから流れて一時期軍艦を擬人化したゲームを嗜んだ程度。けどそのお陰で海軍の事はそれなりに詳しくなった筈だし、一部の娘、もとい艦にはそれなりの思い入れがある。艦艇の分類とかクラスとか分かるのは、私的には十分オタクだ。日本刀の違いが分かるよりオタクだと思う。

 一方の陸軍知識は、軍人をしている一族からの話くらいしか現時点では分からない。他は、ネームド(歴史上の人物)つながりで陸軍の事を知っている程度だ。


 そして基本的に私の歴女知識は人物中心だし、そうじゃない場合もゲーム、マンガ、アニメ情報が入り口になっている。護衛艦が戦争中にタイムスリップする漫画も、戦車戦が女性の武道の一つになっているアニメも一応は押さえた。

 とはいえ、兵器のスペックとか言われても、話半分も知識がない。たまに人物繋がりで、少しだけ知っている兵器があるくらいだ。

 一方では、転生してから軍事についても勉強してきたし、この体の主より私の方が軍隊や戦争には詳しかったおかげで話は理解できた。



 そしてこの世界で起きる戦争だけど、私の前世とほぼ同じ流れだった。『満州事変』とかも、がっつり起きている。

 それよりも、私の前世の世界と違って北樺太の油田があったところで、世界中から禁輸を喰らったら日本の石油枯渇は時間の問題だった。確か備蓄が1年半で枯渇するというのが私の前世の歴史で、この世界でのリミットが2年だったみたいだ。

 だから、戦争突入の経緯は同じと言っていい。開戦に至る経緯は3つ体験したというけど、どれも同じだった。

 と言っても、日中戦争の経緯は私も前世の事はよく知らないので、色々と初めて聞いたくらいの話ばかりだった。受験知識だと、盧溝橋事件とか賛否両論な虐殺事件くらいしか思い当たらないほどだ。

 次の太平洋戦争、肝心な方は、大陸戦線は引き続き泥沼のまま、東南アジアは開戦時と戦争終盤以外は動かず。太平洋戦線だけが唯一派手に動く。


 なおこの世界の日本は、私の前世と違い北樺太を保有し、鳳財閥がある分だけほんの少しアドバンテージがある。

 と言っても、マジギレ状態のアメリカ相手では、誤差範囲の差。草も生えないって感じだ。


 それでも日本海軍には、開戦時点で私の知らない娘、じゃなくて艦艇があった。この体の主の記憶にとどまっていたのは空母と軽空母が1隻ずつだけど、恐らく他にもある筈だ。

 一方の陸軍は、海軍に少しだけ艦艇が多い分だけ強くなってても良い筈だけど、どうやら泥沼の大陸戦線で浪費されているっぽい。

 戦車や飛行機は少し多いのかもしれないけど、私の知識とこの体の主の知識では何が違うのかさっぱりだ。



 そして史実とほぼ同じ経緯を経て大東亜戦争(=太平洋戦争)が開始されるけど、「イッコーセン」がよく言っていた南雲艦隊は6隻ではなく7隻の空母でハワイの真珠湾を攻撃している。

 名前を覚えていたので聞いてみると、私が知らない1隻は鶴の名前を持っていた。

 そして帰り際にもハワイの近くで海戦を行なって、空母1隻を仕留めている。なんでも袋叩きだったそうで、空母1隻を中心とした艦隊を一方的にほぼ全滅させたのだそうだ。

 しかも数日遅れて、マレー沖でイギリス海軍の戦艦2隻を航空隊が単独で沈めている。

 この二つの戦いは戦争中に映画にもなったので、この体の主もよく知っていた。悪役令嬢の口から「ゼロ戦」の名を聴けるとは、夢にも思わなかった。


 そしてその後しばらくは、日本軍の快進撃が続く。これも私の前世と同じ展開だけど、やっぱり少し派手っぽい。

 オーストラリアの近くでも、ミッドウェーというハワイの近くで行われた海戦でも、アメリカの空母をそれぞれ2隻沈めたようだ。

 これは所謂『大本営発表』ではなく、鳳の情報網で得られた情報による知識だから、恐らく正しい筈だ。もし間違っていたとしたら、日本が得た情報そのものが違っている事になる。

 そしてその後の戦況の推移から見ても、ほぼ正しいようだ。

 ただハワイの近くで行われた海戦では、日本側も空母を2隻失っている。それでも力押しで勝ったというから、作戦に参加した戦力が多かったのだろう。


 そして次は南太平洋での激戦地、アイアンボトム・サウンド(鉄底海峡)での戦いだ。

 ここでは日本軍は一度連合軍を押し切っている。

 日本本土にそれなりの量の石油がある事、空母が多い事、そしてアメリカ海軍がここでの戦いまでにやられ過ぎている事が大きな要因となっているみたいだ。

 この頃の米軍は、空母も巡洋艦も全然足りていない。


 そしてその後しばらくは、日本の戦争は小康状態になる。

 日本も開戦からの進撃続きで疲弊していたし、これ以上攻めるにはどこも遠過ぎて日本の国力では攻めるに攻められず。

 連合艦隊司令長官の山本五十六大将(体の主的には元帥)が求めたハワイ攻略も、先送りのままお蔵入り。南太平洋をさらに進撃する作戦も、日本海軍が体制を立て直すよりも早く防備を固められて作戦は中止されたらしい。

 そういえば、山本五十六は昭和18年(1943年)秋に、南方の空で壮烈な戦死を遂げたそうだ。私の体の主も参加したが、派手な国葬だったとの事。


 一方のアメリカ軍を中心とした連合軍は、戦争初期に海軍がやられ過ぎて防戦すら危うい状態。だから連合軍は南太平洋での防備を死に物狂いで固めると、ヨーロッパでの戦いを先に進めてしまう。

 おかげで日本軍は一息つけたけど、ドイツはたまったものじゃなかっただろう。

 全体としての戦況は、ほんの少しだけとはいえ連合軍に不利な筈なのに、私の前世と同じスケジュールで連合軍はフランスに上陸していた。


 その後日本軍は、小康状態でもジリジリと南太平洋で押し返されていく。この流れは、スケジュールが少し後ろに倒れているけど、大きな変化はない。

 アメリカ自体が本気モードの生産体制に入っているので、小康状態でも日本軍では、日本の生産力では支えきれない。


 そうして1944年10月には、グァム島のあるマリアナ諸島沖合で大規模な戦闘が発生。確か、私の前世の歴史より4ヶ月後ろにずれている。

 だから特効持ち、じゃなくて戦闘に参加した空母のラインナップが違っていた。開戦時からの空母は、私が知るお馴染みの鶴姉妹に加えて、その三女に当たる3隻目と、2航戦も揃ってまだ元気にしていた。

 加えて新型の装甲空母と龍の名前の新顔。そして半ダース程の軽空母達。

 空母の数は実に14隻。

 対するアメリカ海軍は、空母の全てが戦争中に誕生した新型艦ばかり合わせて13隻。戦争序盤で日本海軍にどれだけ叩かれたのかが良く分かるし、アメリカの生産力がどれだけチートなのかも良く分かる。


 戦いは、数の上からなら日本軍が勝ってもおかしくないのだけれど、私の前世の歴史通り基礎的な工業力と生産力、そして技術力の差が勝敗を決した。

 日本側は攻撃力の続く限り攻撃を続け、米空母を3分の1仕留めるも、自らは艦載機の大半と空母の半数を失って実質的に壊滅。最終的には制海権、制空権を失ったので、マリアナ諸島の防衛にも失敗する。


 けどこの戦いでは、日本の空母はアメリカの潜水艦には沈められていないので、戦闘自体はかなり違っていたのだろう。七面鳥のキーワードも無かったみたいだ。

 知らない子な戦闘機もこの戦いで初陣を飾って、以後は盛んに宣伝に活用されたらしい。何しろ、戦争にあまり興味のない体の主が、『烈風』と言う名をよく知っていたほどだ。


 その後、1945年2月に米軍はフィリピンに侵攻。

 フィリピン沖海戦と言っているから、多分レイテ沖海戦が発生している。

 ここで日本艦隊は、米軍の上陸地点まで艦隊が突撃に成功して任務を半ば達成する。けど、日本艦隊の囮に引っかかるも反転してきた米機動部隊の反撃を受けてほぼ壊滅。米軍も、上陸船団とその護衛艦隊に甚大な損害を出して、もう両者血みどろだ。

 それでもサングラスとコーンパイプとコスプレ帽子なオッサンは戦死しなかったらしい。悪運半端ない。

 そしてどうやら『大和』の三人目の姉妹は戦艦として完成し、この一回きりの戦いで果てていた。南無三。

 なお、いわゆる『神風特攻隊』が開始されたのも、この戦いかららしい。


 一方で45年3月から米軍のB-29による日本本土空襲が開始され、日本の海軍記念日の5月27日から大規模無差別爆撃が開始される。超空の要塞達の総司令官が『鬼畜ルメイ』に選手交代したのがこの辺りらしい。


 そしてほぼ同じ頃の45年5月に、私の前世の歴史を同じタイミングでベルリン陥落でドイツが降伏。ヨーロッパでの戦いが終わる。一方の日本では戦争が続き、6月に硫黄島での戦いが始まる。

 あとは45年8月にソ連が対日参戦してきたそうだ。これも同じだ。

 この体の主の二周目も、この辺りで空襲に巻き込まれて死んでいる。多分だけど、私の前世の東京空襲の何度目かが東京中心部に行われているので、鳳の屋敷の位置から考えてこれにやられたんだろう。


 そして次を聞こうとしたところで、体の主の話が一旦途切れた。

 沢山話したので、ちょっと一息って感じだ。



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体の主の体験した戦争

この世界の日本は北樺太の油田があるので、我々の世界ほど石油不足に悩んでいない。タンカーも少し多い。日本の国力自体は、設定上ではプラス5%ほど。

それでも石油は全然足りないので戦争を始めているのが、物悲しい限りではある。


それはともかく、おかげでソロモンでは押し切っている。

戦争終盤も、マリアナ沖海戦では油もタンカーも相応にあるので、燃料不足などで潜水艦に狙われるような艦隊運動もしていない事になる。

ただフィリピンあたりになると、もうどうしようもないので推して測るべし。


なお、本土での戦いは、沖縄戦はギリギリなし、空襲が地方には及びきっていない状態。また、機雷封鎖もまだ序盤で終わり。ソ連の侵攻は同じくらい。



軍艦を擬人化したゲーム

「艦これ」もしくは似たゲーム。作中で妙な言葉が出たら、これに関わると思って下さい。



護衛艦が戦争中にタイムスリップする漫画も、戦車戦が女性の武道の一つになっているアニメ:


漫画「ジパング」、アニメ「ガールズ&パンツァー」

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