第11話
「三分って結構高いね」
「そうでもないさ」
カツユキとトモリは描人に教えてもらったオアシスへと向かっていた。
三分とはお金の額を意味し、一分は四分の一両に相当する。
「二分で結晶を買って、一分で道を訊いたと思えばそんなもんだ」
「ふ~ん。オアシスってどんなところ?」
「お前、オアシスに行くのは初めてか?」
「うん。こんな暑いところに来たのは初めて」
「そうか。簡単に言うと『砂漠の町』だな」
「人が住んでるの?」
「もちろんだ。大きなオアシスには人がたくさん集まって町になる」
「なるほど。じゃあそこで水を手に入れるんだね?」
「水だけじゃあない。情報も手に入る」
カツユキとトモリは描人に教えられたとおりに進んだ。
描人が嘘をついている可能性も考えたが、とりあえず歩いた。
「(嘘だったらあとで首根っこつかんでやる)」
カツユキがそんな事を考えていた時だった。
「カツユキ!あれ!!」
「本当にあったのか」
トモリが指さす方を見ると砂漠のど真ん中にいきなり木々が現れた。
木だけではなく、建物も建っている。
カツユキたちはオアシスにたどり着いたのだ。
「やっと着いたんだ!」
「まだだ、まだ目的地には着いてない」
カツユキたちはオアシスで聞き込みをする事にした。
オアシスはそこそこの町で、冒険者もちらほら見かけた。
「こんなに冒険者が居るのに誰もあの人の依頼を受けなかったんだね」
「まあ、額が額だからな」
カツユキとトモリは地理に詳しそうな人を探して繁華街を練り歩いた。
そんな時、店の一角から二人を呼ぶ声が聞こえた。
「カツユキさん、トモリさん」
声の主はすぐに見つかった。
「あんた、来てたのか」
カツユキたちを呼んだのは依頼人の男性だった。
「私どもの村から一番近い町があそこだったのでもしやと思って待っていたのです」
依頼主の男性と合流したカツユキとトモリは村に向かっていた。
村はオアシスから少し歩いた岩陰にあった。
「どうしてこんなところに住んでるんですか?」
トモリが男性に問いかけた。
村には特に産業になりそうなものが見当たらなかった。
水も町から入手する以外方法が無いように見える。
ハッキリ言って人が住むには向かない場所だった。
「詳しくは言えないのですが『宗教的な理由』で住んでいます」
「宗教的な理由?」
「……はい」
「それって、どう言う……」
「トモリ!」
カツユキがトモリの声を遮った。
トモリの肩にはカツユキの手が置かれていた。
「依頼人の事をあれこれと詮索するのは俺たちの流儀に反する」
「……だって」
「さっき『詳しくは言えない』って言われただろう?」
「……わかった」
トモリはそれ以上は追及しなかった。
「みんな、冒険者さんを連れて来たぞ!」
依頼人の男性は人影のない岩場に向かって話しかけた。
すると、岩に空いた窓から人が顔を出した。
それも、一人や二人ではなく何人もいた。
「冒険者さん!」
「冒険者さんが来てくれた!!」
「これでもう安心だぞ!」
たちまち、トモリとカツユキは村人に囲まれてしまった。
皆、二人の事を心から歓迎していた。
よほどモンスターに困っていたのだろう。
「カツユキさんとトモリさんだ」
依頼人の男性が二人を紹介すると村人は大いに喜んだ。
村人には二人が『救世主』のように映ったのだろう。
二人は手厚い歓迎をされ、その日の夜はちょっとしたお祭り騒ぎだった。
「ふぅ~~」
カツユキは温泉に入っていた。
村人からもてなされたカツユキは冷えた身体を温めるために温泉に入った。
砂漠地帯は夜はとても冷えるのだ。
「ん?」
カツユキは温泉に立札がある事に気が付いた。
立札には『岩蝦蟇の油が溶けていて生き返る』とあった。
「生き返る……ねぇ。疲労回復って書けば良いものを」
カツユキは鼻で笑った。
「あ~~生き返る」
カツユキは露天風呂を満喫する事にした。
そんなカツユキの後ろから声がした。
「……カツユキ?」
「ん?トモリか?」
「うん、邪魔するね」
トモリはカツユキと背中合わせで風呂に入って来た。
カツユキもなるべく後ろを見ないようにしたが、やっぱり気になった。
「なんで、入って来た?」
「ここなら誰にも聞かれないと思って」
トモリはカツユキと秘密の会話をするために温泉に入って来たのだった。
自分たちに与えられた部屋では、どこで誰が聞いているのかわからない。
「何の話をする気だ?」
「この村の事を訊きたかったの」
「またその話か」
カツユキは大きなため息をついた。
依頼人の事を色々と詮索するのは冒険者のする事ではない。
しかし、トモリはどうしても気になって仕方がないのだ。
「……この村の住人は『岩蝦蟇』と呼ばれるモンスターを信仰しているんだ」
「モンスター信仰!?」
「そうだ。モンスター信仰は国が禁止しているから町に住ませてもらえないんだ」
「差別されてるって事?」
「ああ、だから町の冒険者たちもここの人の依頼を受けたくないんだ」
「だからあたしたちに頼みに来たのね!?」
「そう言う事だ」
カツユキとトモリは月明かりが照らす中、砂漠を進んだ。
変温動物の『黄色い群れ』は夜間はおとなしくなる。
その時間を狙って攻撃を仕掛けるのだ。
「ねえ、カツユキ?」
「なんだ?」
トモリはカツユキに思い切って訊ねた。
トモリは夜間に仕事を始めると決まった時から訊きたい事があった。
「クーラードリンク、意味なかったんじゃない?」
「ああ、結局無駄になっちまった」
「何のために用意したの?」
「万が一のための保険だ」
カツユキはさも当然のようにそう言ってのけた。
その様子を見てトモリは何も言えなくなってしまった。
「(カツユキが言うんだからそんなものなのかなぁ?)」
トモリはそう思う事にした。
夜の砂漠は昼間の暑さとは打って変わってとても寒かった。
その寒さたるや、凍えるかと思うくらいだ。
砂漠地帯は昼と夜で40度近く気温差が出る。
「(さ、寒い!死ぬ!!)」
トモリは歯をガチガチ鳴らす事になった。
「砂漠だから暑いんでしょ?」
と思って防寒着を用意して来なかったのだ。
「(カツユキも教えてくれれば良いのにっ!)」
トモリは自分の前を歩くカツユキをにらんだ。
頭では自業自得だとわかっていても気持ちではカツユキのせいだと思っていた。
「……おい」
「な、なによ」
カツユキが不意に振り向いたものだからトモリは驚いた。
「(もしかして考えていたことがバレた!?)」
一瞬そう思ったが違った。
「これでも飲んどけ」
そう言ってカツユキは『ホットドリンク』を差し出して来た。
「お前の事だから『砂漠だから暑いんでしょ?』とか考えてたんだろ?」
「うるさい!」
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