第5話

「なんだ『ルミ』もおったのか」

「おばあちゃん、何してるの?」

「おばあちゃん?」

 二人の会話にカツユキは割り込んだ。

「はい、この人は私の祖母なんです」

 ルミと呼ばれた少女は実は村長の孫娘なのだ。

 だから、村を代表して冒険者組合まで一人でやって来たのだ。

「なるほど、そうだったのか」

 カツユキは納得した。

 最初から疑問に思っていたのだ。

 村のなけなしのお金を一人に預けたりして大丈夫なのかと。

「この度は村を救っていただきありがとうございます」

「いや、僕は報酬分の仕事をしただけです」

 カツユキは村長の顔だけを見ながら応対した。

 間違っても首から下は見ないようにした。

「私と孫娘が心から『お礼』をさせていただきます」

「いえ、本当に気持ちだけで十分です」

「そうですか?ではせめてお背中を流しましょう」

「……はい。そうして下さい」

「(本当は嫌だが、そうでもしないとこのばあさんは引き下がらんだろう)」

 カツユキは大人しく二人に身体を洗ってもらう事にした。

 最初は背中だけ洗ってもらうはずだったのに、結局全身洗ってもらう事になった。


 翌朝。

「冒険者様、この度は本当にありがとうございました」

 村人が集まってカツユキにお礼を言った。

「(よっぽどあのモンスターに困っていたんだな)」

 カツユキはそんな事を考えながら

「皆さんのお役に立てて何よりです」

 と礼に応えた。

「カツユキさん。また来てくれますか?」

「ああ、怪我した時はまたよらせてもらう」

 カツユキはルミにそう言うと村を後にした。

 次の仕事を探さなくてはいけないのだ。


 村から帰って数日がたった

「さて、どうするかな?」

 カツユキは次の仕事の事で悩んでいた。

 冒険者として今後どのように身を立てるか真剣に考えていた。

 最悪『転職』も視野に入れなくてはいけない。

「どこかに都合よく組合から断られた依頼人は居ないのかね?」

 カツユキはそんな事を考えながら、昼食を摂っていた。

 そんな時、一人の男性がカツユキの隣に座った。

「ん?」

 カツユキはその男性を不審に思った。

 なぜなら、空いてる席はいくらでもあるからだ。

 一般の人は怖くて冒険者の隣になんて座ろうとしない。

「カツユキさんですか?」

 男性はカツユキの名を呼んだ。

「俺に何の用だ?」

「私たちを救っていただきたいのです」

「……なるほど」

 カツユキは『これは依頼なのだ』と察した。

 男性が何者かは分からなかったが、とりあえず話をきく事にした。

「場所を変えよう」

 カツユキは男性と一緒に冒険者組合を後にした。


「赤い怪鳥?」

 カツユキは男性から依頼の内容をきいていた。

 赤い怪鳥とは中型のモンスターの事だ。

 体長は十メートル弱あり、口からは可燃性の液体を吐く。

 しかも飛翔能力まで備えている厄介なモンスターだ。

「はい、私どもの集落の近くに巣をつくってしまって家畜に被害が出てるのです」

「なるほど」

 赤い怪鳥は肉食性のモンスターだから羊や山羊は格好の餌だった。

「組合には依頼したのか?」

「はい。しかし『場所が悪すぎる』と言って誰も相手にしてくれないのです」

「そう言う事か」

 カツユキは納得した。


 空を飛べる赤い怪鳥にとって山岳地帯は圧倒的に有利に働く。

 対して冒険者にとっては足場が悪すぎる。

 この依頼はかなり過酷な仕事になりそうだ。

「いくつか確認したい事がある」

「はい、何でしょう?」

 カツユキは依頼主の男性に質問する事にした。

 仕事をするうえで確認作業は重要な事だ。

「まず、なぜ俺の名を知っている?」

 カツユキは冒険者のあこがれの銀等級だ。

 この辺りの冒険者なら、カツユキの名前は知ってる。

 しかし、一般の人はカツユキの名前なんて知らない。

「ある冒険者の方が教えて下さったのです」

「ある冒険者?」

「はい。確か『リキヤ』と名乗っていました」

「ああ、あいつか」

 カツユキはその名を聴いてすぐにピンと来た。

 リキヤはカツユキと仲が良い冒険者で現役の時は良く組んでいた。

 彼ならばカツユキの事は良く知っている。

「(仕事が無い俺に依頼人を紹介したつもりなんだろうな)」

 カツユキはそう思った。

 確かに、銀等級のカツユキならこれくらいの依頼なら何とか出来るだろう。

 しかし、キツイ仕事な事に変わりまなかった。

「じゃあ、もう一つ質問するぞ?」

「はい」

「報酬はどれくらい用意できるんだ?」

 これくらい面倒な依頼なら、かなりの報酬を期待できる。

 相場は三十両から四十両と言ったところだ。

 しかし、依頼人の男性は

「四十両弱くらいなら……」

 それを聴いてカツユキは心の中でガッツポーズをした。

「四十両か……」

 カツユキは平静を装った。

「(よっしゃぁぁぁあああ!俺にも運が向いて来た!!)」

 しかし、決して顔には出さなかった。


「もう少し登ったところに私どもの集落があります」

「結構高いところにあるんだな?」

 カツユキたちは集落を目指して山を登る。

 カツユキは前回と違ってかなり大きな荷物を背負っていた。

 荷物を背負っての登山は一苦労だった。

「さあ、見えてきましたよ」

「ああ、あれがお前の集ら……ん?」

 カツユキの目に気になるものが止まった。

 それは『巨大な円錐』だった。

 カツユキはあれが何なのかすぐに分かった。

「(あれは『ランサー』の槍か)」

 集落にはカツユキ以外の冒険者が居るのだ。

 『ランサー』とは槍を武器に戦う冒険者の事だ。

 槍と言っても対モンスター用のかなり巨大な槍だ。

 一目見ればそれが人間用じゃない事くらい分かる。

「もう一人雇ったのか?」

「はい『トモリさん』と言う冒険者の方を……」

「協力して討伐しろと言う事か」

「(まあ俺の報酬が減るわけでもないし、人数は多い方が良い)」

 カツユキはそう考えていた。

 いくら銀等級でも一人で赤い怪鳥を相手するのは面倒臭い。

 仲間が居るなら心強いと思った。


「じゃあ、アンタ四十両も取るの!?」

 トモリと名乗る女冒険者はカツユキを問い詰めた。

 トモリの赤い瞳ににらまれてカツユキは一瞬たじろいだ。

「何も法外な額を取ってる訳じゃない」

「聞いてなかったの!?ここの人たちは困ってるんだよ!?」

「知ってる。困ってるから依頼に来たんだろ?」

「困ってる人からお金を取るなんて、アンタ恥ずかしくないの?」

 トモリが怒鳴るたびに彼女の赤いポニテールが上下に振れた。

 トモリは義侠心の強い女性らしく無料でこの依頼を受けたと言っている。

 それを聴いてカツユキは呆れてしまった。

「(バカか?この女)」

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