最終話 エピローグ

 私は大好きな千住新橋の夕暮れを見つめながら確かに立っている。腕にギブスをはめて頭には包帯をしているが、そんな事は別に対した事じゃあない。私はそんな格別の美しい夕陽を見つめながら独り言のように呟いた。


 「とても長い夢を見ていたような気がするんだ。その夢の中では何か恐ろしい者と戦っていて、気がつくとサクラの呼ぶ声が聞こえて目が覚めたよ。」


 イヤホン越しにサクラの声が聞こえる。


 「じゃあ、私が命の恩人だね。」


 「そうだな。ありがとう。」


 冗談で恩を着せてくるサクラに私は素直にお礼を言った。


 「素直じゃん。」


 「素直に生きることにしたんだ。人間いつ死ぬかわからないからな。」


 冗談のように愛情を照れ隠ししながら私は答えた。


 「人生観変わった?」


 「格好つけるわけじゃあなく、純粋に思うんだけどさ、やっぱりこの夕暮れは間違いなく美しいね。」


 「この前と言ってる事違うじゃん。」


 サクラが笑って答えてくれた。


 「どんなに情けない人生だとしても、こんなにも美しい景色を見られる俺は幸せだよ。」


 私は九死に一生を得た事で、この景色が美しいと思える人生が幸せだという事に気がついた。夕陽の向こうから風で流れてきた桜の一片の花びらを見つめ、私は思わず笑みがこぼれた。

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確か夕陽を見ていた 時雨 大知 @daichi_shigure

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