第15話 どういう状況
「どういう状況なんでしょうか?」
「私も伺いたいです。」
シェリーさんでもわからないようだ。イズミさんはそれに答えるように話し始めた。
「私にも定かにはわからんが、感覚として元に戻ったというのがふさわしいかもしれない。言葉の表現が難しいが、傷が癒えたり、破壊された街が再び形成されたり、怪物がいなくなったり、全てが一瞬にして元の形に戻った。」
元に戻ったのか、じゃあヒデさんはどうなったのだろうか。
「ヒデさんは?」
「ヒデは消えたままだ。いつもの様に消失したものは戻らないようだ。しかしあの騎士の様な怪物を撃退した訳ではなかった。おそらくは門が閉じた状態で自分の国に戻ったという事かもしれん。」
イズミさんは話をしながらその辺の石ころを拾い、高架下の壁に書き出していく。
「整理しよう。私達は死ぬ瞬間、時間が限りなく遅く流れる中、夢を見ている。その夢のさなか朝が来ると、夕方になりまた夜が始まる。死んでいるから昼間にはならないのだとして、何故傷は癒えるのか?よくわからんな。」
イズミさんにもわからないのか。私達は煮詰まっていた。そこにシェリーさんから唐突に提案があった。
「レン、何がどうわからないか指摘出来ないか?この中で一番来て間もないのはお前だ。客観的に物事を捕らえられるのでは?」
私は正直さっぱりわからないのでとにかくわからない事を伝えてみた。
「仮に時間が限りなくゆっくり流れているとして、それなのに一日が更新されていくのは何でなんでしょうか?」
私の疑問に対して何かに気がついたように話が進んでいくイズミさん。
「いい質問だ、レン。確かに矛盾しているな。この世界は夢のように自在に操る事が出来るから、時間がゆっくり流れているという仮説の方が正しいとしよう。そこに何かリセットされる力が働いたとして、まず世界が更新されるのは何でだ。」
イズミさんの問いかけにシェリーさんが答える。
「例えば、新たにこの世界に来る者たちの意識が投影されているのではないでしょうか?先にいる我々の記憶が薄れていっているのでは。」
「なるほどそれなら矛盾が無いな。先に死んだ我々の意識がゆっくり時間が進む中、後から死んだ者の意識だけが更新されていくのかもしれないな。ではあの光は何だ?世界は何故リセットされる?」
壁に書きなぐった言葉を見つめながら、目を閉じて二人はまた考え始めた。私はすかさず疑問を投げかけた。
「世界をリセットなんてどうやったら出来るんでしょうか?」
イズミさんは再び何かに閃いた様に語りだす。
「なるほど、いいぞレン。世界をリセットする程の力だ。異国も含めたこの死者の夢の中にいる全ての者が、共通の認識で願わなければ叶わない。そうか、もしかしてあの光は、世界の終わりではないだろうか。ゆっくり流れて行った世界が終わるなら、無意識に全ての者が死を拒絶するのではないか?そうだと仮定すると、リセットに必要な力はなんだ。元に戻す力?」
私はイズミさんの話を聞いていてなんとなく話がわかってきた。ただイズミさんに自分で答えを導いてもらうためにしばし答えが出るのを待った。壁を見つめながら考えていたイズミは答えに辿り着いたようだ。持っていた石ころを投げ捨てた。
「もしかしたら、時間が戻っているのではないか?我々は死ぬ間際の数秒を繰り返している。そう仮定すると世界が元通りになる事も全てつじつまが合う。」
シェリーさんもイズミさんを待っていたように話し始めた。
「なるほど、無意識に世界の終わりを人類が避けた結果、共通認識として時間を戻せばリセット出来ますね。」
イズミさんは答えを出したことにとても満足している様子だった。
「場所を変えて、座って話をしようか。時間はあるからな。」
私達は近くの公園にゆっくり歩みを進めた。
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