第14話 表情が一転
イズミさんの表情が一転し、体を起こした。
「確かにいい意見だ。少し思っていた結果が得られなくて悲観的に考えてしまっていた。謝るよ。すまなかったな、レン。」
私は素直に謝るイズミさんに驚きを隠せなかった。
「いえ、僕はただ、この地獄みたいな世界でも諦めたくなかっただけです。」
「お前の言う通りかも知れんな。完全に無いとは言い切れんし、何かを見落としてるかもしれないしな。」
イズミさんは初めて私に微笑みかけてくれた。
「ベストを尽くそう。とりあえず朝まで耐えることを考えよう。」
イズミさんの新たな指示に私達はまとまってきた。
「そうですね。イズミさんの傷を三人で治して戦いますか?少なくとも様子は見に行けそうですが。」
シェリーさんもまだ戦う気だ。
「いい案だな。三人で傷を治し、気付かれるだろうから、そこからは修羅を出来るだけ援護する。以上だが何か質問はあるか?」
私はふとした疑問をぶつけて見た。
「朝になるとどうなるんでしょうか?」
シェリーさんがイズミさんの方を見やった。
「わからんな、面白い。どうなるか見物だ。」
「前から疑問だったんですが、どうして朝になると傷が癒えるんでしょうか?」
私のそのふとした疑問にシェリーさんとイズミさんは再び顔を見合わせた。
「相変わらずいい質問だ。考えた事も無かった。確かにそれは好奇心をそそられる、素晴らしい疑問だ。私が次の朝、何が起きているか観察しよう。次の朝があればな。二人とも準備はいいか?」
私達は大きく頷いた。
「こんなに感謝の気持ちであふれる事は久方ぶりだ。戦いの末に辿り着いた新たな疑問。わくわくとした興奮が抑えられん。二人とも生き残るぞ。」
イズミさんのその言葉に私達はお互いの顔を見合わせ、力を解き放つ。三人の傷が癒えていく。そして私達はいっせいに大空へ飛び立った。
上空から破壊しつくされている町並みを見下ろし、怪物たちの暴れている方角を確認する。怪物たちが争っている方角は確認できた。再び近くの道路に降り立つ。イズミさんとシェリーさんが何か相談を始めた。
「ずいぶん荒されてるな。どうしますか?」
「修羅は大分押されているようだ。我々が立ち向かえる相手ではないな。微力だが注意をそらすぐらいしか出来んな。距離をとって、守備的に援護しよう。気配も極限まで消せば案外気付かれないかもしれんしな。覚悟を決めて散開するぞ。生き残ることだけを考えろ。」
その言葉と共に我々は散開した。激しくぶつかり合う修羅と騎士の周辺から、騎士に目掛け光の矢が無数に放たれる。見計らったように炎が放たれたのを見て、私はその辺の瓦礫を手当たり次第に騎士に向かって投げつけた。ダメージはおそらくそれほど無いだろうが瓦礫が粉砕され砂塵になり目くらましにはなっているようだ。
私達は無心で気配を消しながら距離をとりつつ必死に戦い、時間はあっという間に過ぎ、気がつくと明かりが差す。ふと空を見上げると空が明けていく。眠りにつくように意識が薄れていき、気がつくと私は再び高架下の地べたに寝そべっていた。
この世界はどうなったのだろうか。私はゆっくりと立ち上がり辺りを見回した。
「街はどうやら元通りだ。」
シェリーさんが歩きながらこちらにやってくる。街を確認してきてくれたようだ。
「修羅の方は私が見てきた。修羅も歪みも元に戻っていた。いつもと変わった様子は無い。騎士のような怪物もいなかった。」
声のするほうを振り返るとイズミさんが高架下の壁に寄りかかっている。相変わらず私には状況が飲み込めず、全くわからないので尋ねるしかなかった。
「どういう状況なんでしょうか?」
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