vs.クーポンの使い手

「いらっしゃいませー」

 今日は水曜市で品物が安く、いつもより客数が多い。加えて千円毎に五十円のクーポンが発券される日でもあり、非常にお得なのだ。そんな中、一人の客が打子のレジで目を光らせていた。

「ちょっと待ちなさい!」

 打子にストップが発動された。呪文をかけてきたのは五十代半ばほどの中太りの主婦だった。

「何でしょう……?」

「一万円超えてるじゃない! 一回お会計切ってくれない?」

「……は、はあ」

 打子は七十のダメージを受けた。仕方なくお会計を二回に分けてやる。クーポンは一万円で五百円が発券されるのを最後に、二万買おうが三万買おうが五百円しか出ないため、時偶こういった客が現れるのだ。

「ねえ、このアプリ使いたいんだけど」

 主婦はスマホの画面を打子に見せた。アプリのバーコードをレジでスキャンすることで、特定の品物が割引きされる仕組みだ。

「お会計変わりまして、九千と九九九円でございますね」

「ちょっと、一円足りなくなったじゃない! 何か一品、別の物と交換してよ!」

 打子はさらに百四十のダメージを受けた。アボカドをレジかごに戻して、ハーフサイズの長芋をお会計に入れる。

「一万百十円でございますが」

「ふん、まあいいわ」

 主婦は先月発券された五百円と二百円のクーポンを吟味台に置く。紙クーポンを使用した分はお会計の金額に影響を受けないため、主婦はまた五百円のクーポンを手に入れた。

「では次のお会計ですが、九九九円でございます」

「ちょっと、また一円足りないじゃない! どうにかしなさいよ! さっきお会計したやつから手頃な値段のを引いてちょうだい!」

 主婦はコンフューズを使用した。一度お会計したレシートを戻すとなると時間がかかるし、アプリクーポンと紙クーポンも使用しているためややこしくなる。何しろ主婦の後ろに行列ができており、皆身勝手な主婦に苛立ちを覚えていた。ここは素直に諦めてもらうほかない。

「すみません、どうにもなりません。でなければ、一品余分に買ってくださいませ」

 主婦は怒りを露にしながらお菓子コーナーに走り、美味しい棒をひとつ持ってきた。

「ありがとうございます。千と十一円でございますね」

 吟味台に小銭が投げられる。賽銭箱じゃないっつーのと思いつつ支払いを無事に終えた。主婦は五十円のクーポンを握り締め、捨て台詞を吐く。

「今度同じようなことがあったら、お客様の声に書くからね!」

「(好きにしろや)ありがとうございましたー」

 打子を疲労感が襲う。HPが三百減った……。

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チェッカーの戦い 夏蜜 @N-nekoko

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