第16話 ポーション完成
「じゃあ、ポーションが出来たら声かけますね」
素材の置いてある部屋の一角にある机の上に調合箱を置いてくれているミカゲに、私は声をかけた。
「見ていたら駄目か?」
暇だろうと思いそう伝えたが、ミカゲは寂しそうに聞いてきた。もしかしたら、呪いを少しでも早く解きたいのかもしれない。
特に断る理由もないので、私は頷いた。
「退屈だったら、いつでも出て行っても大丈夫ですからね」
ミカゲは少し離れたところに椅子を置いて、ゆっくり見ることにしたようだ。
人から見られるのは、学園でも多々あったのでそこまで緊張はない。
「じゃあ、はじめは薬草を細かく刻んで、調合箱に入れます」
ミカゲが飽きないように、材料を紹介してみる。
ミカゲは不思議そうな顔をしながらも手を叩いているので、喜んでいるようだ。
「薬草は、基本的に細かく刻みます。その方が効能を引き出しやすいです。魔物素材は、自分の魔法で破砕して使います。魔物素材はナイフで切るとちょっと素材の質が落ちる気がするんですよね。ナイフで切る人も多いですけど」
「人によって違うところがあるんだな」
「そうですね。そこまで人の調合は見た事ないですけど、それぞれこだわりはあると思います。基本的にレシピと呼ばれるものはありますが、作成者の癖があったりとか。珍しいもののレシピは結構教えてもらえないことが多いですね」
「……リリーは、呪いを解くポーションのレシピを公開してたんだよな?」
「担当教授にだけですけどね。研究の為だったので、そこまで重要視してなかったんです」
「利権もあるから、その辺はしっかりしろよ」
「そうですね……。今後は気をつけたいと思ってます」
強い注意にしょんぼりしていると、ミカゲは困ったように笑った。
「気を付けてほしいだけだ。怒ってるとかじゃない」
「うん。わかってます」
「リリーは、すごいよ。薬草を切るのも上手いな。早いし、均等だ」
「確かに包丁使いは上手くなるかもしれませんね。あ、これ家主さんの刃物置き場から借りたものですよ。いつかきちんと返します」
褒められて、嬉しくなる。薬草を切り終わり、次は魔物の粉砕だ。
私はポーションの基本となるアルファイの心臓を見せた。
ミカゲは返す必要はないけどな、とつぶやいた。
魔物素材の粉砕は簡単だ。素材に魔力を均等に流すと、魔力が飽和して素材が粉砕されるのだ。
「えいえい」
魔物素材はすべて調合箱に入れて、私が魔力を込めると、あっという間に粉々になる。
「おいおい。すごい気合が入ってなさそうな掛け声でやったけど……これ、すごい難しいだろ?」
「そうですかね? 魔力を流せばいいんですよ」
「おいおい。大きさも厚さも揃ってない素材に対して、均等に魔力を流すって相当だぞ」
「うーん。練習しましたからね。ミカゲさんも冒険者として魔法を使ったりするんですか?」
ミカゲがいまだに戦ったりしているところが想像できないが、冒険者だというのは間違いない。
私が軽い気持ちで聞くと、ミカゲは気まずそうに斜め下を向いた。
「……あーそうだな。魔法を使う事もある。剣で戦う方が多いとは思うが」
「そうなんですね。魔法使う感じだったので、ちょっと聞いてみました。ええと、後はここに先ほどの刻んだ薬草を入れます」
ぱらぱらと刻んだ薬草を入れる。調合箱の中で、ただの粉の上に緑や茶色っぽい草が乗っている状態だ。見た目はとても地味だ。
「これって、通常のポーションのレシピ、じゃない?」
「え? そうですよ。呪いを解くポーションです。アルファイの心臓は前のポーションになるので、これにドラゴンを加えた新レシピになりますけど。アルファイの心臓って値段が安いですけど、流通量が絶対的に少ないですよね」
「……アルファイは、倒すのが面倒なんだ。呪いを解くポーション、本当に、できるのか?」
ミカゲは、口元を押さえて呟いた。
それが、期待しないようにしている仕草に思えて、私は途端にミカゲを抱きしめたい気持ちになる。
しかし、当然そうは出来ないので、気安い感じで笑った。
「作るっていいましたよね。私、割といい腕してるんですよ。見ててください」
「……楽しみだな」
ミカゲの期待に応えたい。と言っても、難しい事はない。
素材はそろっている。私は希少なドラゴンの素材も魔力も込めて粉末にした。
ドラゴンは粉末するために込める魔力が多くてびっくりする。飽和量がこんなに違うなんて驚きだ。
素材は奥が深い。
私は調合箱を挟むように手をつける。
そして、そのまま内側に向かって魔力を込めた。
「通常は調合魔法で凝縮と解放を繰り返して液体状にします。でも、プラスしてここで聖魔法を流し込むんです」
聖魔法とは回復系統の魔法のことを言う。あまり実験は出来ていないけれど、素材を凝縮させつつ魔法を溶かし込むようにする。
調合によって液体になってきた素材は、通常の時と違い薄く光っている。
これが、聖魔法を入れた時の反応だ。
上司からは、何度やっても光ることはない、インチキだと言われたけれど普通に入れればいいだけだ。調合魔法が効いているうちに聖魔法を流し込むイメージだ。
全く伝わらなかったけれど。
そうして、調合と聖魔法を繰り返していくと、素材は完璧な液体になった。混ざりきると、液体の光も消える。
やっぱりこの調合箱はすごく作りやすい。
いつもより早く作れた気がする。
『定着』
最後に、定着の魔法をかける。これはポーションの状態が劣化しないようにかける魔法だ。
薬師しか使う事がないけれど、これが意外と難しいらしくかけられない人も居る。魔法は同じでも、品物によって術式を変えなければいけないので、上級ポーションでもかかっていない場合もある。逆に定着専門で働く人も居るらしい。
私はどちらも苦手ではなかったので、誰かに頼んだことはないけれど。
ミカゲにはすぐ飲んでもらうのに、つい習慣でかけてしまった。
何はともあれ、出来たのでそのまま液体を魔法で浮かせて瓶に移し替える。そしてぎゅっと蓋をする。
見た目はただの単純な薄緑色のポーションになった。
私は鑑定を行った。呪いに効くポーションにはなっているようだ。ほぼ王城で作っていたポーションの割合だったので、無事にできて良かった。
一からレシピを作るには、流石に何度も調合を繰り返さなければならない。
すぐに作ることができたのは、もともとある程度完成していたのと、研究時に使えなかったけれどこれだというほぼ確定の予想があった為だ。
ほっと息を吐く。
「はい。出来ましたよ!」
私は、ミカゲにポーションを差し出した。
ミカゲは何故か眩しそうに眼を細めて、それを受け取った。
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