第7話 お金持ちのお友達

「簡単ですができました! 食べましょう」

「おーありがとう。うまそうだな」

「……良かったです。いただきます」


 作ったものを褒めてくれるだなんて思ってもみなかったので、とても嬉しくなる。

 ここはキッチンがとても立派なのに材料は殆ど揃っておらず、非常用の缶詰や乾物しかなかった。

 それで、私は栄養のありそうなものを煮込んだリゾットを作った。


 二人で手を合わせ、スプーンを運ぶ。トマト缶ベースで、簡素な味だけどあったかくて美味しい。

 ミカゲも美味しそうに食べてくれているので、ほっとする。


「あったかい食事は久しぶりだ。食事つき契約だけど、作ってもらうとは想定してなかったな」

「こんなキッチン初めてだったので、つい。あの、もちろん次からは食堂で食べてもいいですよ」


 私が言うと、ミカゲは眉を寄せた。


「いや、大丈夫だ。外に出ると面倒だからこのままでいい」


 ミカゲは外に出ない自堕落な生活がしたいらしい。警護的にも、確かに外に出ると気をつけなければいけない部分が多いから大変だろう。

 気にしなくてもいいのに。


 それでも、こうやってご飯を作って一緒に食べる生活が続くのかもしれないという事に、どきどきする。

 私はミカゲに悟られないように、話題を変えた。


「それにしても、ここの家はミカゲさんのものなんですか? すごく高そうです」

「……いや。ここは知り合いの家だ。自由に使っていい事になっているから気にしないでくれ」

「わーすごくお金持ちのお友達が居るんですね。びっくりします」

「二階に寝室もあったはずだ。家具や寝具も一通りは揃っている。ここで一緒に生活すると、警備として楽だからそうしてくれると助かる」

「そうですね! 効率大事です」


 ミカゲの言葉に笑ってしまう。何処までものんびりだ。でも、今も姿はボロボロだったから、無理もないかもしれない。

 しばらく冒険者ギルドの依頼をこなしていたのだろう。


 ギルド職員のミチルの態度を見るに、ミカゲはかなり過酷な生活を強いられていそうだった。

 ミカゲがこうしてのんびりと過ごしているのを見ると、何故か自分も嬉しい。


 多分、これは自己満足だ。

 自分が人にしてほしかった事をしているのだ。お互いにとって、良い生活になるといい。


「ごちそうさま。美味しかった。ここはしばらく使ってないけど、風呂もあるから入るといい」

「わーお風呂があるなんてすごいですね! お湯の魔石って高いのに!」


 お風呂は一般家庭にはほとんどなく、公共の浴場に行ったりお湯を沸かしたもので体を拭いたりするのが一般的だ。

 まさかお風呂があるなんて。


 後、お風呂は地味にランニングコストも高い。流石にここは払いたい。


 ……三ヶ月は、お金の事は忘れよう。どうせあぶく銭だし。


「あ! でもミカゲさんが先に入ってくださいね。髪の毛も服もめちゃめちゃです」

「あーそれは確かにな。腹もいっぱいになったし、入ってくる。……覗くなよ」


 頷いてお風呂場に向かうミカゲは、最後に振り返ってにやっと笑った。


「もー覗きませんよ!」


 私もつられて笑ってしまう。

 今のうちに後片付けをしよう。二人分の食器。思わずまじまじと見てしまう。誰かと食べるご飯って驚くほどおいしい。


 これは慣れすぎないようにしなくては。

 私は食器を重ねてキッチンに向かった。


 **********


 朝はどん底のままだったのに、こんなふかふかのベッドで、穏やかな気持ちで寝られるなんて。


 お風呂に入り、天井を見上げながらふわふわした気持ちでいる。


 お風呂から出たミカゲは、ぼさぼさだった髪の毛も綺麗になって、銀髪がとてもよく似合う綺麗な雰囲気の人だった。

 少し冷たい印象の整った顔に、ついどきどきしてしまったのは内緒だ。


 学園に入るまでは殆ど人と関わったことはなかったし、学園でも職場でも遠巻きに人を見ていたぐらいなので耐性が全くない。

 こんな風に意識しているとばれたら、ミカゲがのんびり生活できないだろう。


 私は目を瞑って、自分の煩悩を振り払った。

 あっという間に睡魔はやってきて、私の意識は遠くに行った。


 **********


「おう、おはよー」

「おはようございます」


 起きて下の部屋に行くと、ミカゲは今日もソファで転がっていた。しかし、綺麗になったミカゲは、それだけでも何か絵になりそうな格好良さで動揺する。


「朝ごはんは昨日と同じメニューですいません。買いに行ってもいいですけど」

「それでいい。……むしろそれがいい」


 昨日のリゾットもどきが気に入ったのだろうか。ミカゲはトマト味が好きなのかもしれない。心のメモに書き込む。

 もう一度火にかけ温めなおして、向かい合って食べる。


「とりあえず今日は掃除して、買い出ししましょう!」


 ここの家は聞いていた通りほこりだらけだ。とてもいい調度品が揃っているのに、ほこりっぽいので台無し感がある。

 それでも凄く汚い訳ではないのは、定期的に手が入っているのだろう。


 家の掃除は実はとても得意だ。

 家族で住んでいた時も、掃除は私の担当だった。


 ミカゲは気にしていなそうだけれど、住むなら綺麗な方がいいだろう。借主だって、ずっと空き家だと家が痛むからミカゲに住んでもいいと許可を出したかもしれないし。


 布団類だけはきちんとしまい込まれていたため、とても綺麗だった。


「買い出しって、何か欲しいものでもあるのか?」


 とぼけた声で、ミカゲが聞いてくる。


「食べ物が、ありません!」

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