一日一首(令和四年三月)

弥生に入りコートは薄手に。タクシーは春霞たつ津軽路をぬふ


憧れし加山雄三がなすといふリハビリに倣ひバーベル握る


内裏雛の視線に誘はれ障子開く。まさに庭こめ雪しんしんと


雪のあと春雷とどろき内裏さまさへも驚かるる今日雛祭


雪原に立ちならびゐる林檎樹の剪定されし小枝に春みゆ


「啓蟄」と暦は言へど我が庭は深雪に埋もれ虫らは夢のなか


明恵上人の和歌にいざなはれ上人の四十年に亘る『夢記(ゆめのき)』 読まむ


岩木川は雪濁りの流れ滔々たり真白きほとりに春霞たつ


雪原に剪定すませし林檎樹はマリオネットのごと枝広げをり


陽をあびて岩木山おほふ雪さへも青空うつすいよいよ春なり


色違ひのスマホを持ちて妻とわれ新規設定に休日つひやす


東日本大震災から十一年。気仙なまりは未だ忘れず


老境は須(すべか)らく妻に従ふべくスマホ買ひケースもそろへて候


随筆も安楽椅子に身を沈めスマホに語りて草し終(を)ふなり


みづみづしき新玉ねぎのスライスに鰹節かけ春を味はふ


屋根雪とけ雨音ひびく軒下の黒き土には草すでに生(お)ひて


雪解けに日ごと道幅広がるも路面の窪みで居眠りならず


夢うつつに長く揺れしが目覚むれば十一年前の大地震(おほなゐ)に繋がる


彼岸入りに庭の日向に福寿草の五株がはやも芽吹き初めけり


一面の銀世界には音のなく雪つもりける春彼岸の朝


引越しや大雪にも耐へ臘梅は津軽で根付き雪囲ひに咲けり


真東にうかぶ朝日に掌(て)を合はせウクライナの平和を切に祈りぬ


緒方洪庵『扶氏医戒之略』に鑑みて良き医者たるには耳の痛さよ


地震後の電力逼迫の報よみて「暖房は無理」とテレビ消す妻


留守がちな主に初めて見つめられ黄金色かがやく庭の福寿草


菜園の予定地の雪を砕きつつ何を植ゑむかと農夫の気分


雨ふりて堅雪も溶け庭木々は枝はねあげて春の陽を浴ぶ


道沿ひの防雪柵もたたまれて雪どけの田に春風ながる


最高気温12度Cとふ 春風を切り裂き消防車五台が走る


雪どけの水田につどふ白鳥の首しなやかにSの字えがく


タウン誌の『医者様の繰り言』の連載に早や濫觴で逡巡する筆

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