一日一首(令和三年三月)

十度目の弥生に悼む「忘れない」岩手日報の見出しの嗟嘆


岩手日報の「忘れない」特集によみがへる十年前の弥生の惨事


「七万円払っておけば…」と悔みつつ広報官は入院せしか


才媛は広報官までかけあがり只飯くひてゲームオーバー


大勢の媼と祝ふ雛祭り散らし寿司には桃色でんぶ


世のなかに〈文春砲〉のなかりせば霞の心のどけからまし


今日もまた〈文春砲〉の鳴り響き霞が関は大揺れならむ


啓蟄に霞が関のお偉方は逆に入院の為体(ていたらく)なり


人類の一万世代にくらぶれば十世代にたるか文明社会は


人類の誕生以来の歴史に比し現代文明はいまだ揺籃期


飢餓遺伝子を一万世代も受け継ぎて飽食に病む現代の皮肉


ベランダで吹雪に耐へし鉢植の蝋梅咲きたり五十余輪も


コロナ禍に五十輪余の蝋梅は薄化粧にて春を告げをり


十年前にメルトスルーと知りつつも偽りし政府を今も忘れず


昨今の「あれから十年」に郷愁の募りて弘前のわが家を憶ふ


福島は汚染水処理さへ先送り「石棺」とふ文字が冷ややかに浮かぶ


福島の廃炉工程は目途立たず「石棺」とふ文字が冷ややかに浮かぶ


SNSの「いいね」を求むる呪縛とけスマホを持つも通話するのみ


ナースから「39度!」とふ電話うけ「もしやコロナ?」と寝つかれざりき


朝刊のわがエッセイに思ひをり九年前なる〈財当仮設〉を


雪形の鷲飛び去りてふたたびを真白なる岩手山ま青な空に冴ゆ 


騎兵第三旅団あとのプラタナス〈宮家お手植え〉にして令和に伐らる


明治からの世の移ろひを見飽きしや喬木プラタナス令和に逝きぬ


春彼岸に入れど盛岡は風寒し防寒コートの襟たて出勤


専門店〈一本堂〉の開店祝ひの花輪の辺りに食パンの香り


食パン屋〈一本堂〉は一人づつ客入れ応対すコロナ対策で


岩手山の頂(いただき)あたりに現はれし鷲の雪形 今日は〈春分の日〉


土曜日が〈春分の日〉とてつぶやけり「振替へならずもったいない」と


真西なる山の端にかかる太陽を妻とをろがむ「南無阿弥陀仏」


おだやかな〈春分の日〉の夕餉どき強き地震に椀おさへけり


〈一本堂〉もちもち食パンこんがりと湘南ゴールドバターで日曜ランチ


今にして『往生要集』を手に取れば幼きころの閻魔堂の壁画


春彼岸あけて盛岡に霞たち「の・ど・か」の文字が頭をめぐる


六道輪廻の生死かさぬる世と知れば今日も不善を為す能はざる


本日は電気記念日、感謝して暖かければエアコンを切る


明治十一年アーク灯50個ともりたる三月二十五日は電気記念日


臨終にて欣求浄土を十念す 死因欄には老衰と記す


ZOOMなるリモート会議で気になるは画面の下の小窓のアホ面


春陽あびベランダ花壇の手入れして地上へ一度も降りぬ日なりき


連載の随筆ははや百回目、その表題を「ぼけなりに」としき


ワクチンに負けじとコロナ変異株。継代の意志持つかと思はる


春陽さへ浅黄の紗に変へてたゆたへる黄砂の里はゴビ砂漠らし


コロナ禍にゴビ砂漠より飛来する黄砂のおほふ日本列島

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る