一日一首(令和二年十一月)

秋の陽を浴びゐる南蛮辛子らの赤も緑も辛さ競はむ


イチジクの甘煮をヨーグルトに乗せて食めば五臓六腑に秋の味沁む


県都の顔たる盛岡駅前の〈滝の広場〉その喫煙所つひに消えたり


晩秋の陽を享けてベランダに茶を喫し文化の日には香に顕つ短歌(うた)詠まむ


国会で過ちを交(かざ)る政治家の厚顔無恥にテレビ切るなり


速報のアメリカ大統領選おもしろし。腹立たしきは日本の国会


国会の「回答を控えたい」とふ常套句、何処に消えしや「言論の府」は


立冬の日陰に咲くは毒草のトリカブトの花にて紫不気味


国会会議録検索システムに尋ぬればあまた常套句を瞬時に答ふ


寒き日の「す~」とふ音や心地よきスチーム温くアロマに安らぐ


冬の陽のさしこむ部屋にてカルテ書く観葉植物の仲間となりて


入所時に“How do you do!”と握手せし英語教諭を看取る寒き夜


干し柿の出来ぐあひ如何と試食して妻は笑顔に 上々ならむ


コロナ感染クラスター発生!岩手医大の医師らの食事会が源(みなもと)なりとぞ


消防署の二十余名隔離されコロナ禍ひろがる小さき町にも


女性教師が新型コロナに感染し小学2校を閉鎖せしとぞ


ある過去にシンクロニシティありし思ふ願はくは未来にも起こらむことを


同期会の中止しらする便り来る四人の訃報をあはせ知りたり


コロナ禍で同期の会は中止なれば年会費収めて絆を保たむ


土砂降りの軒打つ音の心地よさ。コロナウイルスも流して呉れよ


公園の大樹は葉落ちて半年ぶり見通しよろしく遠き峰々


ヒルティの『幸福論』によらずとも老いて働ける幸せを思ふ


夕食で「今日はいい夫婦の日だって」と自分のカキフライ二個妻は別け呉る


「岩手でもコロナ感染死者出る」とふ記事の「高齢者」の字に合掌す


去る者は日々に疎しと云ふなれど看取りし老いらの笑顔忘れじ


妻が言ふ「あなたもがんばって!」に団塊世代われの競争心むらむらと湧く


回診で主治医意見書を二枚書き安寧ねがふ金曜の朝


明け方の目覚め際(ぎは)ふとエッセイのネタ湧くこれもセレンディピティ


若き日のキャリフォーニアの甘き風をグーグルマップにてたぐり寄せをり


タイムズ紙の我が連載随想を切り抜き持ち朝陽を背(せな)に出勤せむとす

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