第9話執着
「コロネちゃん、おめえ組織の回しモンだろ?なんで魔法のバトンをお股に持っていながらあたいを直に倒しに来なかった?」
へたり込んだままの入鹿コロネの顔を覗き込むヒサメさん。
「最初にあなたを倒したらハルマさんに嫌われちゃうと思って」
「いつからハルマに目をつけてた?」
「マンションの前でキスしてたでしょ?あれを見たら胸がドキドキしちゃって」
僕は話に割って入った。
「ちょっと待って、ということは僕は尾行されてたということでしょ?」
「最初は猫背気味なチー牛にしか見えなかったんだけどぉ」
「うっ、同級生のギャルと全く同じことを」
「あたいはハルマから搾精してるけど、同時に魔力があたしからハルマに流れ込んでんだよな。つまりコロネちゃんはハルマのものになった魔力に引き付けられちゃったわけだ」
「あたしは魔女だから、魔力に」
「そう、魔女の弱点を全く克服出来てなかったコロネちゃんは魔法のバトンに振り回され、あたいに負けちゃったわけ」
入鹿コロネは茫然とした面持ちでふらりと立ち上がった。
「ドルゴー、おうち帰るぅ」
少女の呼びかけに応じて巨大なマスコットが起き上がり、駐車場に停めてあったクリーム色のワンボックスカーに向かって歩いていき、運転席に乗り込んだ。
「明日は14歳の誕生日。今日の日付けが変わったら魔法少女に格下げです。御迷惑かけました」
入鹿コロネは僕とヒサメさんに向かいぺこりと頭を下げ、ワンボックスカーの後部座席に乗り込んでドアが閉じると同時に車は海浜公園出口に向かった。
「あのマスコット、運転免許持ってるんですね」
「赤信号待ちで隣に並んだ人がビックリしなきゃいいけどな。まあ細かいことは気にしないってことで。これ、ハルマの取り分」
ヒサメさんは入鹿コロネから巻き上げた現金を僕に渡した。
「女子中学生がこんな大金を持ち歩いてるんだ」
「スクールカースト上位フェイスだから富裕層なんじゃね?まあともかく、あたいも家までハルマ送るわ」
ヒサメさんの運転する防弾仕様のドイツ車は僕を乗せて海沿いの国道を走った。海沿いといっても人工海浜で、昼間なら遠くに製鉄工場が見える。
「僕も18歳になったら免許取って、ヒサメさんを助手席に乗せて遊園地に連れて行きたい」
「気遣いありがと。そん時はあたい、どこでなにして......ちょい待ち。あれ、なんに見える?」
「さっきのワンボックスカーですよね」
入鹿コロネのマスコット、ドルゴーが運転しているクリーム色のワンボックスカーがこちらに向かって逆走していた。その上に、中空に浮く入鹿コロネ。
「組織から最後のチャンスを貰ったの。とにかく倒せば魔法少女格下げは無しだって!」
公立中学校制服姿の魔女が声を張り上げた。
「この車、ヒサメさんの魔力で守られてるとか?」
「サキュバスに、んな能力はねえよ。実は、ガッコーに在学中の運転は止めてくれって言われてんだよ、事故ったら退学だ」
ヒサメさんは額に冷たい汗を浮かべつつハンドルを切ってワンボックスカーをかわした。スピードを上げるドイツ車。切り返してついてくるワンボックスカー。
「こらぁ淫魔の分際でカレシ作ってんじゃないわよぉ!」
時速180㎞で走るドイツ車に魔力で並走する入鹿コロネがトンファー型警棒で運転席側の窓ガラスを叩いた。
「......うぜえ」
ヒサメさんがちょこっとハンドルを左に切ると、車体にぶつかった入鹿コロネは「うあっ」と叫びつつ吹っ飛んだ。
「とにかく、とにかく逃げるぞ」
バックミラーに、ワンボックスカー運転席のドルゴーが入鹿コロネを右手で軽々と受け止める様が映っていた。
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