終章 総合先端未来創世高校ラグビー部

総合先端未来創世高校ラグビー部


「監督、ちょっと相談があります」

 非常勤講師室に、ひときわ大きな生徒が入ってきた。近堂だ。

「おお、座れ」

「失礼します」

「なんだ、進路か」

「はい……。実は、誘われているところがあって」

「おお、すごいな! やっぱりお前の突進力は魅力だよな」

「その、富咲山大学で」

「おう……」

 鹿沢は腕を組んでしばし斜め上を見た。富咲山はCリーグ下位のチームである

 ラグビーを始めて2年ということを考えれば、声を掛けられるだけでも大したものだ。しかし近堂の潜在能力を考えた時、Cリーグのチームに入るのはもったいない気もした。

「どうお考えですか」

「ラグビー、続けるつもりではあるんだな」

「その、はい。こんなこと言うのはあれですけど……相撲は、多分本当に才能がなくて」

 近堂は、恵まれた体躯を相撲では生かしきれなかった。そして、チームにも恵まれなかった。しかしラグビーでは、それなりに成果を残すこともできた。もっとスタミナをつければ、もっと活躍できるのではないか。そう思うようになっていた。

「じゃあ、行ってみたら? 近堂は、誘われ運がいいかもしれん」

「わかりました」

 鹿沢は、素直にうれしくもあった。大学ではラグビーを続けない者もいる。続けたとしても、皆とはかかわらなくなる者もいる。例えば佐山は医学部を目指し、医学部ラグビー部に入るつもりだという。

 酒井と芹川は、受験してAリーグ所属の大学を目指すようだ。合格したとしても、レギュラー獲得の道は険しいだろう。

 宝田は応奏大学への進学が決まっている。Aリーグの強豪である。怪我の影響はあったものの、やはり県内ナンバー1の呼び声が高かった選手である。複数の大学から声がかかっていた。

 荒山は房総学院に行くことになった。チームで唯一の関東への進学である。強豪チームだが、レギュラーを取る力はあるはずだ。

 甲と鶴はラグビーを続けないらしい。寂しいが、全員が続けるなんてことはない。

 その一方で、森田は再びラグビーをするという。ガッツがあるので、絶対に活躍できると思っている。

 それぞれの道がある。

 そして、そこまで付き合ってこられた。あの時のように、途中でやめることがなく。



「まあ、こんなもんよ」

 金田がゴールラインを越え、ボールを地面にたたきつけた。カルアがキックを決め、「在校生」チームは14点になった。

「貪欲になったもんだ」

 鹿沢は満足げにうなずいた。卒業生に花を持たせたいのもあるが、在校生が活躍できなければチームの未来はない。

「金田ちゃーん」

 西木が金田に抱き着く。まるで勝利したかのような騒ぎだったが、点数は卒業生が33点、19点差で在校生が負けていた。

 今日の試合は7人制で行われている。森田を含めた三年生の9人が卒業生チーム、残りのメンバーが在校生チームだった。次々と選手が入れ替われる在校生チームだったが、それでもずっと卒業生チームが試合を支配していた。

 鹿沢が笛を鳴らした。試合終了である。



卒業記念試合

卒業生チーム33-14在校生チーム



「総合先端未来創世高校ラグビー部、3年生はこれで卒業だ。受験で練習できないやつもいたのに、さすが三年生だったな。二年生以下はこれを越えられるように。そして今度は、花園でベスト8を目指そう。じゃあ、前主将の荒山から最後の言葉をもらおう」

 鹿沢が見えないマイクを荒山に渡した。

「えー、うん。チーム名も変わって、監督も色々あった中で、俺らは花園に行きました。いい思い出であるとともに、悔しさの残る結果でした。残ったみんなには、悔いのないように頑張ってほしいです。そして新主将の松上は、むっちゃ大変だろうからストレス発散法を見つけてくれ」

「荒山さんはどうしてたんですか~」

「モスで爆食い」

「リッチ~」

「財布は悲しくなるな。いいか、このラグビー部は楽しい。それはすごいことだと思う。言い争いはあっても、喧嘩をしているのを見たことがない。勉強を犠牲にして練習をしろとも言われない。それでも佐山は医学部に受かりやがった。けしからんな。長くなった? そうね。うん、みんな大丈夫だから、頑張って。以上!」

 部員たちが拍手をする。カルアも拍手をした。楽しい一年だった。初めて勝利を知った一年だった。そして悔しい敗戦も知った。いろいろとあった。

「しめはカルアちゃんのキックでしょ!」

「えっ」

 西木の言葉に、周りも乗った。

「そうだな、あれまた見たいな」

「勝利のキック!」

「ポールブレイクか」

「なんでそんな名前付いてんの……」

「俺も見たいかな」

 鹿沢も悪い笑顔で言った。

 カルアは渋々、ボールをセットした。

 実は皆には言っていないことがあるが、それは黙っておこう、と思った。結果はどうなるかわからない。

 カルアの蹴ったボールはまっすぐにポールに飛んでいく。みごとにポールに当たり、弾かれ、そして後ろに飛んでいった。

 成功か失敗かわからない状況に、皆が戸惑っていた。

「やっぱ当たるのスゲー!」

 西木の言葉で、その場は盛り上がった。ただ、カルアは舌を出しながら頭をかいていた。

 実は、ポールに跳ね返るキックはとても成功率が低いのだ。あの場面では、祈るような気持ちで蹴った。

 そんな自分を信じて走ってくれた金田と宝田の姿は、とても頼もしかった。

「できれば……これなしで宮理に勝てるようになりたいです」

「うむ、そうだな」

 鹿沢はうなずいた。こうして、ラグビー部の一年間が終わった。




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私立なんとか高校ラグビー部 清水らくは @shimizurakuha

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