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「いい感じじゃん」
フッカーの綱田はこぶしを握った。
前半12分。味方がトライを決め、キックも決まった。7-7、同点である。
杣山高校ラグビー部は、春の時点では存続すら危機的だった。2、3年生合わせて10人。1年生が入ってくれなければ、大会に出ることすらできない。しかしそんなときに、12人の新入生が入ってくれた。
部員がそろっている高校は、県内に二つしかなかった。高専や大学、他県のチームととにかく相手を探して実戦を重ねた。何回も負けたが、着実に力をつけていった。
花園で一勝を。それはチームの悲願だった。
そして、一回戦の相手は聞いたことのない名前の学校になった。新設校が推薦で集めまくっている場合もあるので警戒したが、単にこれまでもあったものが改名しただけらしい。しかしなんとか高校が勝った相手である宮理高校は、全国ベスト8の経験もある強豪である。簡単な相手ではないと予想された。
だが、意外と戦えている。フォワード陣では相手の方が重くうまいが、スクラムハーフとスタンドオフの動きに脅威を感じなかった。
中央から切り崩していけば、チャンスが……
そう思った時だった。右サイドを猛然と駆けあがってくる選手がいた。タックルをかわし、どんどん前へと進む。フルバック、宝田だった。
綱田も守備に向かうが、間に合わない。脇を抜けられて、そのままトライされた。
あっという間の出来事だった。
「やばい奴いるじゃん……」
県予選の結果はしっかり調べていた。そこでは、宝田は目立つ成績は残していない。しかし今の動きを見る限り、一流選手であることは間違いない。
宝田は、難しい角度からのキックを外した。7-12となった。
宝田がトライした瞬間、相模はほっと胸をなでおろした。
2回戦に向けて戦力を温存しているのは、よくわかっている。だが、その2回戦に進めなくては全く意味がないのだ。
カルアだって一年生だ。スタンドオフがものすごい上手いというわけではない。ラグビーは初心者でも、これまで相模はいくつかの運動部で活躍してきた。ちゃんと練習しても来た。だからうまくいく。うまくいくはずだった。
「相模ちゃーん!」
西木の声が聞こえてきた。パスをできる位置ではない。
「えーと、あー」
山なりのボールを蹴る。敵の頭を越えて落ちたボールに、西木が飛びついた。
「どわっせ!」
テイラーが着く前に、押し出すように西木はボールをパスした。テイラーはボールを受けると、センターの鶴にボールを渡す。そのまま鶴が駆けて行った。
トライ。位置もよく、キックも決まった。19-7。
得点につながるプレーだったが、相模に笑顔はなかった。
「自分で選べないと……」
そう言って相模は、地面を蹴った。
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