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わかってんじゃないか、テイラー。
荒山は、苦笑した。
足が痛む。けがというわけではない。ただ、明らかに体調は万全ではなかった。
ウイングに行って、慣れない動きをした。ただ、きっと原因はそれだけではない。主将として、自分が頑張らなければという思いもあった。必要以上に力を入れていたのかもしれない。そうなるとわかっていて1回戦は休ませてもらったのかもしれない。
鹿沢には、異変のことを伝えている。「俺はいつでも交代させるから、いつでもギブアップしろ」そう言われた。そしてこの監督はきっと、見るからに動きが悪くなればギブアップしなくても替える。そういう人だということが、これまでの戦いからわかっていた。
初めての全国大会への挑戦。絶対に舞台を下りたくない。
「よっしゃ行くぞー!」
叫びながら荒山はこぶしを突き上げた。
しくじったか。鹿沢は後悔していた。
星野の怪我は軽かったが、先のことを思ってベンチ入りさせなかった。鹿沢は全国大会に必要な戦力についても考えていたのである。
だが、荒山が抜けることまでは考えていなかった。テイラーがいるから万が一の時はと思ってはいたが……
「犬伏、ハーフやったことはあるか」
「え、監督まで。ありますけど」
「ないこともない、と考えとけ」
「僕がですか?」
「今日は星野がいない。そういうこともあり得る」
「テイラー君は?」
「もちろんテイラーが本筋だが……あの顔だ」
カルアはテイラーの方を見た。スミレの花のような顔色になっていた。
「ああ……」
「一応、だ」
「はい」
「よし、行って来い」
グラウンドに入る前に、カルアは、テイラーの方に歩み寄った。
「テイラー君」
「な、なんだい」
「今日はネット中継もあるらしいから、うちも見てもらえそうなんだ。テイラー君のところも、きっと」
「え? 海外でも」
「うん」
「そっか……」
「じゃ、僕は行ってくる」
先発メンバーがグラウンドに入っていく。テイラーはそれを、上目遣いで見ていた。
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