4

 7-7、試合は同点となった。

 再開後、前列の4選手とウイング・センターの選手がポジションを交代した。本来の位置に戻したのである。

「どうしますか」

 カルアは星野に聞いた。スクラムハーフとスタンドオフは連携していく関係にある。

「相手は逃げ切る気かもしれない。ペナルティがあったら狙っていく。ドロップゴールも行けたら行け」

「はい」

 星野は苦い表情をしていた。カルアに説明したとおり、相手は同点狙いかもしれない。同点でトライ数も同じ場合、準決勝進出は抽選で決まる。

 ポジションも変えてきた以上、相手の作戦は変わるだろう。もし守備に徹するとすれば、経験者の多い新口は厄介なチームとなる。

 荒山ならばどうするか。ちらりと、星野は後ろを振り向いた。目が合った荒山は、ゴールポストを指さした。

「間違ってなかった」

 星野はほっとした。

 彼なりに、プレッシャーがあったのである。荒山の代わりにスクラムハーフをするということもそうだし、テイラーが1回戦でそこそこちゃんとこなしたこともあった。待っていればレギュラーになれるわけではない。今、つかみ取らなければならないものがある。

 同点からの逃げ切りが狙いだったとしても、ラグビーではそう簡単にいくものではない。

 だが、星野の気持ちは、すぐに砕かれた。

「馬鹿が。メンバー同じだから取れる作戦は変わらないんだよ」

 江里口は歯茎を見せて笑った。

 中央志向に変わったとはいえ、新口の狙いは同じだった。再び組まれたモールを、総合先端未来創世は止めることはできなかった。

 キックは外れたものの、7-12。総合先端未来創世はリードを許すことになったのである。



「二人ともミスったな」

「えっ」

 鹿沢のつぶやきに反応したのは松上だった。なぜトライされたのか、彼なりに考えていたのである。

「松上は気づかなかったのか」

「二人っていうのは……」

「星野と荒山だ。二人とも相手が守りに入ったと思って、逆に自分たちが守りに入ってしまった。あんなモール、止める力はあるんだ。でも、心の準備ができてなかった」

 松上も考えていたのだ。二度までもモールにやられたのはなぜか。そんなに激しい攻撃には見えなかった。あれにやられるならば、宮理の攻めは絶対に止められない。

「油断ですか」

「一言でいえば。ただ、コントロールできなかったのは主将の責任だ」

 ポジションが変わったとはいえ、チームのキャプテンは荒山である。そして荒山は、星野と会話していた。方針を伝えていたのである。

「攻めないとだめですか」

「まあそうなんだが……もっと嫌がらせをしないとな」

 鹿沢は何回か、膝をたたいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る