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 実力差がある。

 試合は常に総合先端未来創世高校のペースで進んでいた。一回のタックルでは突進を受け止めきれなかったし、バックスのステップに翻弄されるばかりだった。しかし月ノ瀬の15人は必死に守っていた。どんどんと点が入る、という状況ではなかった。

 テイラーが球出しでもたつき、西木が味方選手とぶつかり、佐藤がパスをスルーしてしまう。一年生たちの細かいミスで、リズムをつかみきれなかった。

 ただ、鹿沢にはそれも織り込み済みだった。控えメンバーを出してもうまくいく、なんていう保証はない。むしろ、うまくいかなくても大丈夫なのは初戦しかないと踏んでいたのである。

「どうだ、荒山。今日のチームは」

 鹿沢は荒山に隣に座らせていた。

「頑張っていると思います」

「そうだな。このメンバーなら、こんなもんだ」

 ボールが、宝田へと渡る。もっとも後ろから走り出した宝田は、そのまま前進を続けた。相手のタックルをはじき、突き抜ける。独走で、トライを決めた。

 ベンチは沸き立っていたが、全員が喜んでいるわけではなかった。

「もともとああいう選手なのか?」

 鹿沢は聞いた。

「ちょっと違います」

 荒山は答えた。

 その後も、ペースはつかみ続けていた。得点も重ねた。前半は、35-0で終えることとなった。



選手交代

児玉(NO8 2)→芹川(NO8 3)

林(WTB 3)→原院(WTB 2)



 後半が始まり、二人の選手交代があった。

「荒山君、説明頼む」

「えっ。はい。児玉は十分頑張りました。控えとして期待できる内容です。林はここから温存で、原院が「なおった」かを見るんですね」

「オーケー、キャプテン」

 金田がちらりと原院の方を見た。一瞬ためらった後、声をかける。

「二歩後ろです」

「あ、ああ」

 鹿沢はその光景を見て思わず噴出した。

「一年が強制治療したか」

 監督は笑っていたが、松上は唇をかんでいた。彼にとって原院はチームメイトでありクラスメイトである。けがをした彼が練習に戻ってきたのは、確実には原院のおかげだった。もともとそんなに仲が良かったわけではない。それでも原院は、「仲間を助ける役」として目立つことに、躊躇いがなかったのだ。

 入部した時から、ずっとだった。原院は、二歩前に出てしまう性格だった。自分が目立ちたい。自分で決めたい。その思いが強すぎて、空回りしてしまう。一年生のときは、技術が身についてもなかなかチャンスがもらえなかった。前監督はワンマンプレーを特別嫌ったのである。

 今年も、ここまで出場機会は少なかった。金田が入ったからである。そのうえ、カルアまでウイングで出ることがあった。一年生たちはステップやキックで目立ちまくっている。原院はそれがうらやましくて仕方がなかった。

「見てろよ松上。俺お前のが穴を埋める」

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