一回戦

1

対月ノ瀬高校戦オーダー


酒井(PR 3)

佐山(HO 3)

鷲川(PR 2)

須野田(LO 2)

小川(LO 2)

甲(FL 3)

西木(FL 1)

児玉(NO8 2)

テイラー(SH 1)

二宮(SO 2)

鶴(CTB 3)

林(WTB 3)

金田(WTB 1)

佐藤(CTB 1) 

宝田(FB 3)



「テイラー、ファイト!」

 星野の声が響く。

 一回戦の相手は、月ノ瀬高校。県立高校であり、部員数は17人。昨年は連合チームで出場していた。

 総合先端未来創世高校は、ベストメンバーを組まなかった。外から見れば「控え選手を試している」ように見えたかもしれないが、部員たちはそうではないことを知っている。

 フランカーの松上は、けがで出られない。だが、そのことを悟られないために、まだ瀬上を出すわけにはいかない。それならば瀬上をセンターで出す方が作戦がばれないともいえるが、彼までけがしては作戦が成立しなくなってしまう。そこで一年生の佐藤に白羽の矢が立った。

 宝田は、実戦の勘を取り戻さなければならないとの判断から、一回戦での復帰となった。手の内を明かすことになるが、リターンの大きいのは「経験」だと鹿沢は判断した。

 スクラムハーフは、荒山もリスクを避けるため、そして星野は準決勝に備えるためテイラーになった。ほかのチームはまだ、荒山がスクラムハーフ以外で出る可能性を知らない。

 ナンバー8の児玉だけが、「チャレンジ枠」の出場だった。前列の控えとして、「いつ出場してもいい選手」なのかどうか、監督は見極めようとしている。

「二回戦は犬伏で行く。準決勝はそれを見てから決める」

 スタンドオフに関しては、「ガチンコ勝負」となっていた。経験と安定の二宮か、キック力のカルアか。もちろん、カルアはどこかで出したい選手である。しかし、上に行くほど「どんなポジションでもいいから」などとは言えなくなってくる。特に鹿沢は、チーム力は個の集合ではなく「ポジションの関数」だととらえていた。大事な試合では、準備していた中で最高の方程式を採用する。そこに向けて、勝てる試合は利用していくつもりなのである。

「ノックオーン」

 試合が始まるなり、レフェリーの声が響き渡った。佐藤がボールを前にこぼしたのである。

「ドンマーイ!」

 荒山が声を上げる。

 もちろん、佐藤は焦っていた。

 彼はもともと、アメフト部に入ろうとした。それもアメフトに詳しいわけでなく、なんとなくかっこいいと思っていたのである。総合先端未来創世高校にはアメフト部がないのだが、ラグビー部の練習を見て「入れてください!」と頭を下げた。足は速く、体力もあったため入部後についていけないということはなかったし、徐々に技術も身に着けていった。

 彼はこれまで、団体競技で重要な位置を任されたことがない。小学校の時に入っていたサッカークラブも、さぼりがちのままフェードアウトしてしまった。

 それなりに強いラグビー部に入って、一年生のうちに出番があるとは思わなかった。しかも、めぐりめぐって松上の代役なのである。

 しかも今日は、カルアが出ていない。経験者でありキック力お化けの彼が出ずに、自分が出ている。不思議な感覚だった。そしてそのままで試合が始まったら、ボールが手につかなかった。

「次は取れるぞー」

 そう声をかけてきたのは、同じくセンターの鶴だった。ここから、ずっと隣で戦うことになる。

「はいっ」

「気負うな。ちゃんと回せば、俺が何とかしてやる」

 佐藤は泣きそうだった。頼れる人がいるのは、ありがたい。



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