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「えー、この時間でミーティングする。ついたらすぐ試合だ」

 合宿所最寄りの駅。ロータリーで整列した部員たちを前に、鹿沢が話し始めた。

 ちなみに昨年まではマイクロバスを出してもらえたのだが、今年から「全国大会参加経験のある部」に限定されたため、ラグビー部は公共交通機関を乗り継いで行かねばならなくなった。

「全員揃ってます」

 森田が、点呼を終えて報告する。

「うむ。東博多は皆も知る通り超強豪校だ。全国大会の決勝以外で全く負けてない。俺も勝てるとは思ってないが、勝つ気がないわけじゃない。それに幸いなこともある。金田を隠せる」

 部員たちがざわついた。金田がいないのはマイナスでしかなかったからだ。

「そうか、そうだな。次に当たるときのことを考えれば」

 いち早くうなずいたのは、荒山だった。

「そういうわけだ。相手に弱点がないわけじゃない。昨年の花園決勝、作戦にこだわりすぎて負けた。スクラム推しだったが、思ったより対抗されたんだろう。何本かキックで点取ってれば勝てる試合だった。そういうところをついていくしかない。いいか」

 部員たちの顔が引き締まった。宮理よりも強い、トップ校との対戦。皆の気合が高まっていた。



(試合終了)東博多高校 75-3 総合先端未来創世高校



「思ったより粘ったっすね」

 フルバックの一二三は、主将の千葉にそう言った。

「馬鹿野郎。もともとあれぐらいはできるチームだ」

 3点奪ったこと、失点を75に「抑えたこと」に対して、千葉はそう評した。

「あと、あのなんだっけ、犬なんとか。やばいっすね。とんでもない距離」

「確かにあればやばかった。プロでもあんな飛距離ないだろ」

「でも、ラインアウトがあれじゃ、駄目っすね」

「フルバックもおめえの方が上だ」

「へへっ。当然っすよ」

 一二三は東博多唯一の一年生レギュラーである。全国二位のチームでそのポジションを得るのは並大抵のことではない。東博多には、全国からトップを目指す猛者たちが集まってくる。一軍に所属するだけでも大変な中、常に試合に出る一二三の実力は疑いようがなかった。

「なんとか高校の一年は二人だったか。犬伏と……あー」

「杉畑っすね」

「お前、本当に同学年気にするな」

「負けたくないじゃないっすか」

 千葉は上唇をなめた。自分も一年の時は、全く同じことを考えていたのである。

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