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「東博多ァ?! やばい!」

 駅で電車を待つ間、荒山は部員たちに事情を説明した。

「西木はそういう反応だと思ったよ」

 県外出身の西木にもわかる、やばい校名。東博多はそれだけのチームである。また、博多東はラグビー以外も強い。様々なスポーツで実績を残し、高校自体が「やばい」のであった。

「去年も優勝できなかったのが不思議なくらいですよ」

「まあな。そういうところもあって、情報戦に出ているみたいだ。菅平に行けばいろいろ見られるから。ある意味うちだけが、東博多の現状を知れる……が……」

「主将、怒ってます?」

「そりゃそうだろう。うちとは、公式戦で当たらないと思われてんだぞ」

「あー……」

 東博多は、全国で当たるかもしれない相手に手の内を明かしたくない。しかし練習試合の相手は欲しい。そのために事前にどの高校が来るかを調べてから合宿地を選んでいた。「なんとか高校なら大丈夫だろう。練習相手にはちょうどいいし」と思われているのである。

「まあ、一回も全国行ったことないし、そう思われて当然かもな。まあな……」

「主将が震えている」

 校名変更でただでさえ軽んじられることが増え、荒山はストレスが溜まっていた。自分的には「花園まであと一歩」だったが、世間はそうとらえてはくれない。

「東博多ぶっ潰したら、優勝候補と呼ばれるよなあァ」

「主将が壊れた」

 荒山は目を見開いて笑っていた。部員たちは面白がっていたが、宝田だけは違った。



「来なかった」

 学校からの帰り道。二人はずっと一緒に帰宅していた。小学生の時からずっと。

「そうか」

 宝田は答えた。

 短い言葉で、すべてを分かり合える関係だった。荒山は、「東博多から推薦の話は来なかった」と伝えたのである。

 実際には、全国大会で活躍するレベルの学校からは一つも話が来なかった。県内ではトップレベルの二人だが、全国だと「よくいるレベル」に過ぎなかった。

「どこにする?」

「宮理は行かない。でも両親は、県内にしてくれって」

「東嶺近いよな。そこそこ強いし」

「そうだな」

 二人は、この時進路を決めた。

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