鹿沢監督

1

「見ろよ、変な花咲いてるぜ!」

 西木が跳ねるように駆けていく。一年生たちは、その姿を見守っていた。

「それにしてもハイキングとはなあ」

 きょろきょろしながらそう言ったのは、テイラーである。白いハンチングをかぶっている。

 総合先端未来創世高校ラグビー部の一年生8人は、「山風自然の道」を歩いていた。発案者は西木である。「高校に遠足なくてがっかりしたよ! 俺たちで行こうぜ!」と表向きは言っていた。

 だが、西木は宮理くうりに負けた後、思ったのだ。チームとして戦うには、同級生とのつながりがもっと必要なのではないか、と。

 三年生は、悔しさにあふれながらも少し嬉しいような、複雑な表情をしていた。たとえ負けてもラグビーが好き。また、チームが好きなのだろう。

 宮理と対戦して、力の差は思い知らされた。優秀な選手がそろっており、簡単にその差は埋められないだろう。できることは、チーム力を高めていくことではないか。西木はそう考えたのである。

「金田君はどう?」

 西木に声をかけられて、金田は首をひねった。

「歩くね」

「そりゃそうだ」

「あんまり歩いたことなかったから、変な感じだ」

 テイラーとカルアが、顔を見合わせた後噴き出した。

 一年生の間でも、金田は謎の存在だった。同じクラスの部員はおらず、出身中学も違う。部活以外では同級生と会おうとせず、校内で部員と会っても態度がそっけなかった。

「金田君はさ、実はインドア派なんじゃない?」

「考えたことなかった。家ではよくラグビーの動画見てる」

「うわ。ラグビーマニア?」

「好きだ。テイラーのお父さんも見たことあるぞ」

「はっ、マジで? むっちゃレアなのに」

「海外のもよく見る」

 金田がいろいろとしゃべるので、七人は内心驚きながらも、平静を装っていた。機嫌を損ねると、黙り込んでしまう気がしたからだった。



「正直どうよ? レギュラー」

 児玉に聞かれた能代は、しばらく窓の外を見ていた。二人は、ハンバーガー店にいた。

「あ……おもしろくはない」

「どゆことよ、それ」

「全然思ってることができないし。やっぱ、キックは犬伏がすげえし」

「贅沢だねえ」

 二人は二年生で同じクラスになり、行動を共にすることが増えた。一年生の時は「控え組」という共通点もあった。

「宝田さんが復帰したら、またベンチだし」

「早くこっち戻ってきてー」

「児玉はさ、サッカーではレギュラーだったんだろ」

「ま、中学は弱小校だったし。うちなら二軍かも」

 総合先端未来創世高校のサッカー部は、三年に一度は全国に行く強豪校だった。そちらは、校名が変わっても体制が変わらなかった。

「でもいい選手だったって聞いたけど」

「いい選手なんて、いっぱいいるぜ。実際さ、サッカー部には勧誘されなかったもん。ラグビー部に誘われてうれしくて入っちゃった」

「いいじゃん。楽しいでしょ」

「まあ。でも試合は出たいぜ、やっぱ」

 児玉のポジションはナンバー8。三年生の芹川がずっとレギュラーとして出ている場所である。芹川は中学の時からクラブで活躍しており、高校に入ってから始めた児玉とはかなりの実力差がある。

「来年は確実に出るだろうけど」

「それはそれでプレッシャー」

「ままならんねえ」

 二人は氷だけになったドリンクを、ズズズと吸った。

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