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 最初の、コンバージョンキック。難しい位置ではなかった。

 いや、カルアに難しい位置など存在しないのだ。どんな角度でも、時間さえかければ確実に入る。

 だが、カルアは震えていた。初めての対外試合。初めての得点に関わるシーン。能代さんから譲られたキッカー。

 一点取ればいいというチームではない。一点を争うかもしれないチームなのだ。

 これを外せば、負けることがあるかもしれない。

 震えた。蹴られたボールは、右のポールぎりぎりを、抜けていった。成功だった。

「まじで?」

 カルアは目を丸くしていた。「真ん中を通らないなんて」と。

 


「あ、ちーす」

 蔭原かげはらは、手を振りながらやってきた。

「え、今来る?」

 小茂田こもだの眉がハの字になる。

「寝てた」

「相変わらず」

「いや、いいでしょ。日曜は寝るとしたもんよ」

「でも、来てるじゃん」

「だって俺、健吾ファンだもん」

 蔭原は、宮理くうり高校ラグビー部のキャプテンである。宮理は七年連続で花園に行っている県内トップ校だった。

「荒山のこと好きね。一緒のチーム行きたがってたもんね」

「健吾がいたら、うちも全国ベスト4行けたと思うんだよね」

「あー、わからんでもない」

 小茂田は梅坂学院高校ラグビーに所属していた。こちらのチームは七年連続、決勝で敗れて全国大会には行けていない。

「で、どうよ、今年の東嶺……じゃなくてなんとか高校は」

「まあ、いつも通りまとまってるけどね。ただ、苦しいかな」

「ほうほう」

「宝田が怪我だからな。あと、推薦一人になったらしい」

「あらー。やばいね。でもさ、その一人金田君だよね。彼天才だよ」

「まあ、そうかも。たださ、もっぱら榊が入るって噂だったじゃない」

「そうね。うちに来てくれちゃった」

「卑怯よね」

「しょうがないじゃない。榊君が憧れていた東嶺高校は、なくなっちゃったんだから」

「まあ、そうだよな」

 ベスト4の常連、東嶺高校。そこに所属する荒山や宝田は、中学時代から蔭原や小茂田と競い合ってきた仲である。三年連続、大事なところで当たってきた。

「正直、今年はベスト4も無理なのかなあ」

「そうかもしれん」

 二人は、少し寂しそうな顔をしていた。

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