6
最初の、コンバージョンキック。難しい位置ではなかった。
いや、カルアに難しい位置など存在しないのだ。どんな角度でも、時間さえかければ確実に入る。
だが、カルアは震えていた。初めての対外試合。初めての得点に関わるシーン。能代さんから譲られたキッカー。
一点取ればいいというチームではない。一点を争うかもしれないチームなのだ。
これを外せば、負けることがあるかもしれない。
震えた。蹴られたボールは、右のポールぎりぎりを、抜けていった。成功だった。
「まじで?」
カルアは目を丸くしていた。「真ん中を通らないなんて」と。
「あ、ちーす」
「え、今来る?」
「寝てた」
「相変わらず」
「いや、いいでしょ。日曜は寝るとしたもんよ」
「でも、来てるじゃん」
「だって俺、健吾ファンだもん」
蔭原は、
「荒山のこと好きね。一緒のチーム行きたがってたもんね」
「健吾がいたら、うちも全国ベスト4行けたと思うんだよね」
「あー、わからんでもない」
小茂田は梅坂学院高校ラグビーに所属していた。こちらのチームは七年連続、決勝で敗れて全国大会には行けていない。
「で、どうよ、今年の東嶺……じゃなくてなんとか高校は」
「まあ、いつも通りまとまってるけどね。ただ、苦しいかな」
「ほうほう」
「宝田が怪我だからな。あと、推薦一人になったらしい」
「あらー。やばいね。でもさ、その一人金田君だよね。彼天才だよ」
「まあ、そうかも。たださ、もっぱら榊が入るって噂だったじゃない」
「そうね。うちに来てくれちゃった」
「卑怯よね」
「しょうがないじゃない。榊君が憧れていた東嶺高校は、なくなっちゃったんだから」
「まあ、そうだよな」
ベスト4の常連、東嶺高校。そこに所属する荒山や宝田は、中学時代から蔭原や小茂田と競い合ってきた仲である。三年連続、大事なところで当たってきた。
「正直、今年はベスト4も無理なのかなあ」
「そうかもしれん」
二人は、少し寂しそうな顔をしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます