(6)
鍛治谷口の反応は、柴塚の頭の中の討論結果と同じ路線だった。
二人の会話を聞いていた榊が声を弾ませる。
「じゃあ、主任の狙い通り『犯行声明』から追えばイケるんじゃないっすか?」
「百万超えの書き込みやコメントのうち、何を追えばいいんだ?」
「それとね、榊くん、下手に探らない方が良い情報かもしれないよ?」
先人二人に連続で返されて、榊は黙って天を仰ぐ。
一方、柴塚も鍛治谷口へと振り返る。その視線を受けて、鍛治谷口は静かに口を開いた。
「……本部が強引にでも介入して封鎖しようとする話だからね。所轄の刑事程度じゃ手に余る内容、ってことも十分有り得ると思うよ?」
柴塚は返答に窮した。
大山鳴動して鼠一匹か、はたまた藪をつついて蛇か、今のところ何とも言えない。しかし、青写真を裏返したところに何が描かれているかは誰も知らないが、例えば、国を揺るがすような話にまで波及すると考えるのは、さすがに大げさな気はする。
だが、過去に
が、他にめぼしい線もない。
二人の温情に胸の内で深く礼を取りつつも、柴塚の意志は変わらなかった。自身の為すべきことは被疑者確保であり、
差し当たっては、小野寺でさえ両手を上げたネット上の情報分析をどうするべきか。
――いや、何を選択するかが分かるなら本部が押さえる秘密も自動的に明白になる、か。それらは同一のはずなのだから。
柴塚の胸元、ポケットの中で
取り出した画面には「奏」との表示。総菜の作り置きについて伝言でもあるのかと思い、鍛治谷口と榊とに背を向けて通話をタップする。
「あ、お兄ちゃん?」
やや
「どうした?」
「お客様が来てるんだけれど……」
「客?」
今日は、小野寺以外に訪問予定者はいない。
柴塚の気配に気づいた鍛治谷口が振り返る。
手で制止する柴塚。
その雰囲気が電話口で読みとれたのか、奏の声が少し慌て気味になった。
「あ、違うよ? 怪しい人とかじゃなさそうだし、心配はいらないんだけれどね? いや、本当ならこの上なく怪しくないというか、だったら何の用でって話になるんだけれど」
一向に要領を得ない。奏にしては珍しかった。
遮るように柴塚が口を挟む。
「奏」
一文字ずつ低く、明瞭に、力強く、名前を呼ぶ。
その重さに引かれたように、奏の声が途切れた。軽く息継ぎする音が聞こえ、落ち着いた呼吸音になる。
その後で、柴塚は静かに問う。
「誰が来た?」
「『ケイシカンの藤木と申します』って――」
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