(5)

 小野寺によると遺体の下ということだったが、それ以外も一通りチェックする。足場の鉄パイプ状のフレーム、通路代わりに敷かれた板、それらに囲まれた高架の支柱……。

 建設会社の備品まで目を通してみたが、どこにもそれらしきものは無かった。

 もっとも、『犯行声明』とやらが文章なのかシンボルなのかも定かではないのだから、見落としている可能性も否定できないのだが。


「ふあぁ~」


 再々度耳に届く榊の欠伸。

 勤務時間外に何をしようともちろん自由だが、それで勤務に差し障るのであれば話は別――だが、その手の小言は、柴塚はあまり得意ではなかった。

 榊の眠気払いも兼ねて、ここに来たもう一つの目的を果たすことにする。


「榊」


「ふぁいっ!?」


「昨日の会議で、結局、本部は?」


 唐突にかれて、単調動作で漫然としつつあった榊の脳が慌てて回り始める。柴塚の意図を察した鍛治谷口は、口を挟まず榊へ目を向けている。


 県警本部が高架下と廃工場の事件ヤマをコントロールするつもりなのは明白。では、具体的にどの程度なのか? 完全に捜査をつもりなのか?

 

「ええっと、アレです、県警本部の捜査員はその――被害者ガイシャの関係者への聞き取り全般を、叶署ウチはそれ以外を、引き続き現場を捜査ってことになりました」


 途中から調子を取り戻し、キレよく報告を締めくくって、榊は姿勢を正した。その様子に鍛治谷口はにこやかにうなずく。


を穫ったか」


 現場及び周辺の聞き込みからめぼしい成果が得られない現状では、おそらく最も見込みがある線だろう。被害者の関係者そこ

 しかし、なら、少なくとも、本部も事件解決を妨害する気は無いはずだ。事件を丸ごと有耶無耶うやむやにしたいわけではない……


に圧力がかけられたのは、犯人ホシを守るためにではない】


 柴塚の脳の一部が文脈を言い換える。


 ……のなら、圧力をかけた者と犯人ホシ線は、やはり無し、だな。


【その可能性が高い】


 なら、圧力をかけた者も事件解決を望んではいるわけだ。


は望んでいると推測される】


 ? どういう意味か?


【被疑者確保ととが別に扱われている可能性がある】


 ! 、つまりことがあるのか。


囲い込みそれは、下手に探られたくはないという意向の表れ】


 ということだな。圧力は事件の解決云々うんぬんではなく、のもの、と。


犯人ホシを刺激している】


 『』を使って、か。では、それを辿れば


【圧力をかけた者に秘密があり、犯人ホシがネット上で『犯行声明』を示唆することでそれを刺激した、とは推測できる】


 辿り着く先がかは分からない、か。だが、こういう場合秘密と動機それらは大抵一つなものだ。


【経験則からなら、否定はしない。が】


 問題は、その『犯行声明』をなことだな……


 …………


「柴くん?」


 鍛治谷口の声で戻る柴塚。


「……本部は被害者ガイシャ周辺から情報ネタが漏れるのを抑えたい、でしょうか?」


 柴塚に呟きながら目線を送られ、鍛治谷口が少し考え込む。


「うーん……そうだねぇ、確かに、情報封鎖それが目的だろうね。ただ、そのって何だろう? 犯人ホシに直結するなのか、全くの別件なのか、今のところ断言はできないんじゃないかな?」


「しかし、『犯行声明』の話が現れてから本部が情報封鎖をしてくるとなると……」


「……全くの別件ということは、さすがに無い、かな」

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