異世界でショッピング

 ユイナさんに案内され、俺達は買取窓口へとやってきた。様々な素材を買い取ってくれるらしいので、手持ちの魔石を一部売ってお金にしようと考えているのだ。


「わふ? ユイナと子供達じゃねーか」


「あ、マリ。買取価格はどうだった?」


「今、キャシーが三等分してる所。で、その三人は何故ここに?」


 犬耳の女性の名前がマリで、猫耳の女性の名前がキャシーなのか。可愛らしくていい名前だな。


「今までに貯めておいたドロップアイテムを売るらしいわ」


「なるほどな。何を売るつもりなんだ?」


「魔石の類を売ろうと思っています。スライムとかホーンラビットの魔石をそこそこの数持っているので」


「魔石か。なるほどな」

「あら、魔石がドロップしたの? それはラッキーだったわね」


「まあ、はじめのうちはそれくらいしか倒せなかったので、スライムの魔石は結構な数持っているんですよ。魔石って売れるんですかね?」


「魔石はいつでも品薄だからそこそこの値段で買い取ってもらえるはずよ。それと、依頼も出てると思うわ」


「それって、依頼を受注する前に手に入れたものでも大丈夫なんですか?」


「新鮮さが大事な物なら駄目だけど、魔石なら手に入れてから時間がたっても劣化しないし、大丈夫よ」



 その後調べてみると、魔石(極小)の依頼が出されているのを確認できた。なお、スライムのような弱小な魔物から取れる魔石をまとめて「魔石(極小)」と呼んでいるらしい。


「こんにちは、冒険者様ですね。いかがされました?」


「はい、冒険者です。ええと、依頼の受注と達成報告って事になるんですかね? これです」


 魔石を200個ほど取り出す。その量にユイナさんとマリさんはかなり驚いていた。


「はい、承りました。少々お待ちくださいね、鑑定しますので……」


 魔石を一つずつ見つめている。なるほど、鑑定スキル持ちなのか。


「はい、確かに受け取りました。こちらが買取金額の20万ゴールドです。また、依頼の達成記録をつけますので、こちらに触れて頂けますか?」


 これは冒険者登録の時にも使った、魔力を使った個人認証システムだな。なるほど、こういう風に使われているのか。



「「「本当にありがとうございました!」」」


「いえいえ」「気を付けるのよ」「頑張れよ!」


 キャシーさん、ユイナさん、マリさんにお礼を言って解散した。そして、俺達は異世界で買い物をすることにした。


「加奈がスイーツを食べたいって言っていたな。どの辺りにあったんだ?」

「こっちこっち」


 加奈の要望に応え、まずはスイーツを探す事に。お、見えたぞ。クレープ屋さんか?


「あら、いらっしゃい」


 優しそうなおばあちゃんが店番をしていた。


「じーー。これ、欲しい。どう思う?」


「良いと思うわ」

「いいんじゃないか?」


 それはディスクケーキと呼ばれている物のようだ。せんべいの上に目玉焼きとホイップクリームを乗せた料理だった。ほんとに目玉焼きにホイップクリームを乗せてるよ……。面白い食べ方だなあ。また、クリームの上にはブドウ、キュウリ、バナナがトッピングされていた。って、ええ? キュウリ? 何故キュウリ?

 鑑定できるかな? お、出来た。ふむ、キューカンと呼ばれる果物らしい。どんな味なんだろ?


 3個セットで500ゴールドで売っていたのでそれで購入。

 いざ、いただきます。なるほど。

 確かにキュウリ、いやキューカンは果物だった。歯ごたえや食感はキュウリそっくりなのだが、味は柑橘系の甘酸っぱさがある。変わった食べ物だな……。

 さらに奥まで齧りつくと、卵の黄身が割れ、半熟の黄身がホイップを黄色く染めた。うーむ、ちょっと食べにくいな……。食べにくさはともかく、味はいい。黄身の濃厚な味わいが、フルーツの酸っぱさを和らげてくれる。なんだこれ、普通においしいぞ!



「おいしかったな」

「ええ、日本でも作ってみたいね」

「うん、おいしかった」


「次はどこへ行こうか? 俺は特に希望は無いけど、姉さんはどう?」


「私? うーん、武器とか防具とか見てみたいなって思ってるんだけど、どう思う?」


「別にいいんじゃないか?」「良いと思うよ」


「ただ、どこがオススメなのか分からないのよね……」


「あー、確かに」

「この世界にユ〇クロがあるはずも無いしね」


「それに、今の武器も十分強いと思うし、わざわざ新調しなくても良いと思うしね。それじゃあ、資金稼ぎにダンジョンに行かない?」


「そうだな!」

「それだったら、先に依頼を見ておいた方が良かったかも?」


「うんん、大丈夫。こうなる事を見越して見ておいたから。って言っても魔石以外、私たちが見た事のあるドロップアイテムは依頼に出されていなかったわ」


「流石姉さん、チェックしていたんだね」

「流石サク姉」



「我々は」

「ダンジョンに」

「……帰ってきた?」


 ダンジョンの入り口にやってきた。初めてのダンジョン攻略だな。実に楽しみである。


「早速行こう! でも、迷わないか心配ね。地図を探したほうが良かったかしら……?」


「最悪、右手法を使えば脱出できるんじゃないか?」


「そうね」



 さて。ダンジョンへは石畳の階段を降りて侵入するみたいだ。そして降りた先は……なるほど。こういう感じか。

 地面は平らで、両サイドは石の壁で出来ている。まるで、小学校の社会見学で立ち寄った観光地化した坑道のように、綺麗に整備されている。『楽園の間』はフィールド形式だったけど、第一層は「これぞ迷宮!」って感じなんだな。


「ちゃんと灯りがあって安心」


「だな」

「まあ一階層だし。あくまでチュートリアルって感じなのかしら?」


 所々に生えているキノコが光を放っているので、迷宮内は比較的明るい。姉さんの言う通り、これはチュートリアル的な意味で作った階層なのかもしれない。


 一分ほど歩き進むと、十字路に差し掛かった。


「おお! 分かれ道ね! ……でもこれって」


「前は明らかに行き止まりだよな?」


 前方は10メートルほど先に壁が見えている。


「右も行き止まり」


 右も、15メートルほど先に壁がある。


「……消去法で左しかないわよね」


 俺達は左に進んだ。



「あ、スライムよ! 誰が倒す?」


「俺がやっていいか? どうせ経験値もそんなにもらえないし、それだったらドロップアイテムが欲しいからな」


「そうね。雑魚の処理はアユ君に任せるわね」


「おっけ。フレイム」


 使ったのは火魔法。高温の炎を前方に飛ばす魔法だ。MP消費が5くらいの小規模な魔法を使う。この規模じゃあ、獣相手だとイマイチ効果は薄いのだが、スライムが相手ならこれで十分。


「魔石、落ちたな。んじゃ、先に進むか」



 その後も時々スライムに出くわしながら迷宮を散歩した。分かれ道もあったが、迷うことなく進むことができ、下へと続く階段を見つけた。


 2~3階層は少し迷路の規模が大きくなった。まあ、適当に歩いていれば次の階層を見つける事が出来たけど。

 4~7階層は属性スライムが出てきた。迷路の規模は二階層とそんなに変わらないかな。

 8~9階層ではスライムが二匹同時に現れるようになった。迷路の規模は少し大きくなっていると思う。


 そしていよいよ10階層。ボス戦である。


「今日中に10階層後のチェックポイントを取れそうね」


「それが終わったら、どうする? 楽園の間に戻って寝ようか?」


「賛成よ」「私も賛成」


「今までの傾向からして、そんなに強い魔物がいるとは思わないけど、慎重に行こう。それじゃあ、扉を開けるぞ」


 リエルさん前の扉とは違って、ここの扉は木で出来た普通の扉だった。これが格の違いってやつか……。

 ギイーという音と共に、扉が開く。その先にいたのは……。


「「でっか!」」

「大きいね」


 そこにいたのは直径1メートルほどもある巨大なスライム。鑑定結果はこんな感じ。



『スライムキング』

レベル:5

生命力最大値:30

生命力回復率:1

魔力最大値:30

魔力回復率:1



「私が先制攻撃するわね」


「任せた!」


「はぁ!」


 姉さんは剣術スキルを持っているためか、凄く美しいフォームでスライムを切りつけた。スライムのHPが半分削れた。しかし、スライムは姉さんに火の玉を放った。さらに風魔法を使って姉さんにノックバックを与える。


「おっと、ちょっとHPが削れたわ」


「回復するね」


「ありがと、カナ!」


 姉さんの治療が行われている間、俺は魔法を準備する。


「アイスランス!」


 別に魔法名を声に出す必要はない。が、周囲に「どんな魔法を使うか」を伝える意味でも、俺は魔法名を叫ぶようにしている。

 今回使ったのは水魔法。氷の棘を高速で放つ魔法である。


「倒せたぞ」

「あっけなかったわね」

「私達、結構強いかも」


 こうして俺達は10階層のチェックポイントを取得。

 そして、そこから洋館へと転移したのだった。


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