冒険者になった
迷宮の外に来た俺達が見たのは、「これぞ異世界」という光景。日本じゃ絶対に見られないような恰好をした人々が忙しなく行き交う中、俺達は優しそうな冒険者を探していた。
「お、あの集団。なんか感じ良さそうじゃないか?」
俺が見つけたのは三人の女性グループ。全員が狐耳や猫耳を携えているので、いわゆる獣人なのだろう。
「全員女性だし安心感があるわね。早速話しかけてみましょ」
「むさくるしくないのはグッドだね」
加奈よ。それは男性冒険者がむさくるしいということか? まあ気持ちは分かるけど!
「あのう、すみません」
意を決して姉さんが話しかけた。
「ニャ? 私達かしら?」
白くてふさふさな猫耳と、すらっとした尻尾を持つ女性が振り向いてくれた。人間なら「はい?」や「うん?」とか言う所を、猫人は「ニャ」というようだ。なお、語尾に「ニャ」をつけるわけではないらしい。
「えっと、私達、冒険者に憧れて田舎から来たのですが、どうやったら冒険者になれるのか分からなくて……。先輩冒険者にお話しを伺いたくって」
「なるほどね、それなら冒険者ギルドで冒険者登録をする必要があるわ。ギルドの場所は分かる?」
「えーと、分からないです」
「それじゃあ、着いてきて。私達もギルドに向かう所だから」
「「「ありがとうございます」」」
◆
「見た所、三人はまだ子供よね? 何歳なの?」
黄金色でもっふもふな尻尾を携えている女性が話しかけてきた。狐人という奴だろうか?
「13歳です」「「11歳です」」
「まだ成人もしてないのね」
「ちなみに、この町では成人は何歳からなのですか?」
「え? 16歳だけど……? あなた達の故郷では違ったの?」
「18歳ですね」
「へえ……。もしかして国外から来た感じ?」
「まあ、そんな感じですかね? 正直、地理感が無いので国外なのか国内なのか分からないですが……。ともかく遠くですね」
「へー」
次に興味深そうに俺達をのぞき込んできたのは、サラサラの尻尾と可愛らしい犬耳を携えた女性。
「三人だけで旅をしているのか? 両親は……ワフゥ?!」
ボーイッシュな口調なんだな。声もちょっと低めで男勝りな女性という印象を抱いた。そんな彼女は俺達の両親について尋ねようとしたが、猫人の女性に肘でわき腹を殴られた。
(あんたねえ! デリカシーが無さ過ぎるわよ! おそらく三人は、両親が亡くなったか、あるいは両親に捨てられたかして、それで子供達だけで旅に出ているのよ)
(な、なるほど。それだったら両親の事は聞かない方がいいかもしれないな)
(『かもしれない』じゃなくて、聞いちゃ駄目なの! ほんと、あんたはもう……)
なにやら盛大な勘違いをしているみたいだが、まあ良いだろう。うん? よく考えたら、この世界に親はいないし、ある意味間違いではないのか?
「それにしても、この町は大きいですね~! まさかこんなにも発展してるなんて……」
中性ヨーロッパ風の街並みをイメージしていたのだが、そんな予想よりも遥かに発展していた。流石に東京や大阪には遠く及ばないけどな。現代のヨーロッパの郊外くらいのイメージだろうか。
レンガ造りの建物が並んでいる様子はヨーロッパへ観光に来た気分になる。この前テレビで見た時に「いつか行ってみたいな」と思っていたが、まさかこんな形で夢が叶うとは。
「ワフフ~! それはもちろん。なにせ、ここ『セントロマイナ』は無限ダンジョンのすぐ傍だからな! 冒険者はもちろん、鍛冶職人、商人なんかも集まる。そうやって、多くの人が集まる場所には、食事処や宿屋も集まる。この町はそうやって大きくなったんだぜ!」
「「「なるほど~」」」
なんだか社会見学みたいだな。見ず知らずの土地で、現地の人にその街の成り立ちなんかを聞いたりして。楽しいね、うん。
◆
「着いたわ。ここが冒険者ギルドのセントロマイナ支部よ」
「「「おお~!」」」
ここは支部なのか。という事は本部は別にあるって事だよな。てっきりここに本部があるのかと……いやそうか。日本でも本社は東京に置かれることが多いんだよな。それと似た感覚か。
さて、肝心の冒険者ギルドだが、想像以上の規模を持つ施設だった。大型ショッピングモールの規模、と言えばその大きさが伝わるだろうか。
「すごく大きな施設なんですね……」
「他の支部と違って、ここには冒険者が素材を売るスペースの他に、素材のオークション会場、闘技場、その他多数の施設があるからね」
「なるほど」
「私はこの子たちを登録窓口に案内するわね」
「ニャ、それじゃあ私たちは買取窓口に言ってくるね」
「わざわざありがとうございます」
「いえいえ」
狐耳の女性が俺達を案内してくれるようだ。他の二人とは別行動するみたい。
「あの二人が向かった買取窓口っていうのは、ドロップアイテムを売るところですか?」
と姉さんが尋ねた。
「そうよ」
「あとでそこも案内して頂けませんか? 売りたい物があるので」
「ええ、いいわよ」
(何を売るの、姉さん?)
(魔石を売ろうかなって。お金が無いと、観光も出来ないでしょ?)
(なるほど。念のために今までの分は全部ため込んでいるけど、未だに活用してないからな。加奈はどう思う?)
(私も賛成。ちらって見かけたスイーツが気になってる)
少し歩き、俺達は『登録窓口』と書かれた窓口にやってきた。そういえば、異世界語を普通に読めるようになっているな。スキルの影響だろうけど、不思議なもんだ。
「あら、ユイナじゃない。どうしたの? というか、その三人の子供は?」
狐耳の女性の名前はユイナのようだ。受付嬢とは知り合いなのだろう。
「ダンジョン前でこの三人に会ってね。冒険者になりたいらしいから連れてきたの」
「なるほどね……。ええ、早速登録しようね」(親がいないのでしょうね……。可哀そうに……)
受付嬢は俺達に笑いかけるが、彼女の眼の奥に不憫な物を見ている時の憐みの視線を感じたのは気のせいでは無かろう。うーん、この世界には孤児が少なからずいるのかもしれないな……。それで、俺達もその類と思われているのだろう。
冒険者登録はほとんどすることが無かった。まず『審判の水晶玉』使って重犯罪歴(重犯罪者の称号)が無いかを確認され、その後名前と大まかな生年月日を記入。
「最後に魔力登録をするからここに触れて頂戴」
おお! 魔力登録なんてものがあるのか。流石異世界。サスイセ! なんてことを考えながら、魔力を登録する。そして暫く待つと金属製のプレートが渡された。
「それは冒険者カードよ。記載内容に間違いが無いか確認してね」
名前、年齢が書かれているだけのシンプルなカードだった。余白が空いているので、後々何かが追記されるのかもしれない。
「金属製なんですね」
「ええ。再発行にはお金がかかるから亡くさないようにしてね。ちなみに、それは鉛で出来ているわ」
「「「鉛」」」
釣りの重りなどに利用されている金属のはずだ。
「ランクが上がると、もっと良い金属のカードを貰えるわ。ランクについては知ってる?」
「「「知りません……」」」
「そうなのね。ランクは簡単に言うと、冒険者としての貢献度ね。ドロップアイテムを売ったり、依頼を達成する事で上がるわ。ランクが上がれば色々と優遇を受けられるから、積極的にランクを上げてね」
「付け加えると、依頼の達成の方がランクが上がりやすいわ。だからまあ、一日の初めに依頼を見て、良いのがあればそれを狙うし、なければ普段通りにドロップアイテムを集める。そんな感じの生活スタイルね」
受付嬢とユイナさんがそれぞれランクについて説明してくれた。なるほど、冒険者の生活スタイルが大雑把に分かった気がする。
その後の説明でランクは以下のように分かれていると判明した。
なお、レベルや年収については大雑把な数値であり、絶対的な基準ではない。例えば俺達は、魔物狩りの経験が豊富だから鉄ランク並みの実力を持つ。だが、ギルドに登録したばかりなので、ランクは鉛である。
あと、ゴールドはこちらの通貨単位。大雑把に日本円と同じくらいの価値と考えて支障はないと思う。
鉛:冒険者なり立て(Lv.10前後)。年収100万ゴールドくらい
鉄:駆け出し冒険者(Lv.30前後)。年収200万ゴールドくらい
銅:平均的な冒険者(Lv.50前後)。年収500万ゴールドくらい
銀:一流の冒険者(Lv.75前後)。年収1000万ゴールドくらい
金:なかなかお目にかかる事の無い天才冒険者(Lv.100前後)。年収2000万ゴールド以上
ミスリル:偉業を成し遂げた冒険者に送られる(Lv.200前後)。過去には、スタンピード時に前線で活躍した冒険者、ドラゴンの討伐に成功した冒険者などがミスリルになった。名誉職とも言える。
オリハルコン:Lv.300以上に到達した、人外級の強さを持つ冒険者に与えられる。100年前に無限ダンジョンの500階層を突破したパーティーに初めて与えられて以降、そこに到達した人たちはいない。
ちなみに、ユイナさんのパーティーは銅ランクになったばかりらしい。俺達よりも高レベルなのか……。まあ、俺達は10歳前後。レベルに差があって当然だよな。
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