悪意の排除3(??? vs〝形態・崩〟の概念体【Faust】)

「……」


 謎の機体は思考や解析によって、新たに出現した“悪意”の源を3つ特定していた。


 一つは、セントラルに突如出現した「罪源」。

 一つは、不滅のメガロポリスに位置取っていた「変転」。

 そして、最後に残る一つは――


「残る悪意は、この世界全てを包んでいる、か。これは概念による上書き……されど、この悪意そのものにさしたる脅威は無し」


 世界が悪意に包まれていれど、悪意は世界を蝕まない。

 いや、蝕むが――蝕むにおいては、条件を満たす必要があった。


 その“条件”を看破した謎の機体は、搭乗者たる青年に告げる。


「位相を並行世界に保て。何があっても、私たちを認識させるな」


 既に二度“悪意”を屠った謎の機体は、残る悪意の性質を完全に把握していた。

 そして、


「悪意の根源……いずれ必ず、対峙する。が、今は目の前の悪意を除き去るとしよう」


 謎の機体は、残る悪意の源に近づくため、転移を行うのであった。


     ***


 視点は移り、残っている悪意の源に焦点を当てる。


「見ろ、俺を」


 悪意の源――概念体“Faustファウスト”は、エリア3ことシュヴァルトヴァルトからセントラルに向けてゆっくりと歩を進めていた。

 道中、哀れにもファウストと遭遇し、対面してしまった数名のハンターは、思考を、いな全てを崩壊させられ――発狂に至っていたのだ。


 “対峙する”――ただそれだけのことで、思考する生き物全てを崩壊に至らしめるファウストがセントラルに侵入すれば、徐々に確実に犠牲者を増やす。そして、最終的にはセントラルの人間すべてを崩壊に至らしめ、死に追いやる。


 生ける爆弾とも言える――そもそも考える生き物すべてを殺すファウストは、召喚者エッツェルの意思により自身の存在すらも歪め崩壊させられていた。


     ***


「悪意の源は……見えたな。だが、まだ排除する運命さだめには非ず」


 そんなファウストの背後10kmキロに、謎の機体は位相を並行世界にシフトさせた状態で転移していた。

 位相が異なるということは、万が一存在を察知されて振り向かれても、「同じ世界にいない。ゆえに、」という状態に持ち込み、“対峙する”という条件を回避するためのものである。

 もっとも、10kmという距離は“対峙する”と言えるものではないし、そもそも今のファウストはセントラルに意識を向けているのだが。


「今私が行うべきは、目の前にある悪意を打ち消し、また以後も――外法げほうによりてこの世界に持ち込まれる悪意を打ち消すことだ」


 謎の機体が、静かにSGアサルトライフルを構える。この銃も位相をシフトしているが、発射されるSGエネルギー弾のみを今ファウストがいる世界にシフトし直すことで、ファウストを消滅せしむる浄化の弾丸となるのだ。


「その先触れとして、私は貴様を抹消する。――滅せよ」


 短く告げた、存在も、そして概念もを、全宇宙から消滅させ――そのひずみを正しく直す、敵意を借りた救済の言葉。

 もっとも存在は完全消滅するために、“概念体としてのファウスト”は抹消される運命であるが。


 そして放たれたSGエネルギー弾は、数秒の間を置くとファウストの体に命中し、弾丸そのもののSGエネルギーで全身を包み込む。


「励起」


 謎の機体がそう告げると、ファウストは――断末魔を上げる間もなく、存在を完全に消失するに至った。

 同時に悪意――【Gestaltzerfall】が消失し、崩壊状態にあった冒険者たちが正気を取り戻す。もっとも、“一度崩れ去ったものを完全に取り戻す”とまではいかなかったが。


「招かれた“悪意”は3体。全て屠れど――このままでは、予断を許さんな」


 だが、謎の機体に歓喜の言葉は無い。

 悪意を招く根源たる、“黒竜王エッツェル”を排除するまでは――。


「だが、それでも目の前の脅威は去った。これ以上、世界を揺らがせる介入をさせはしない。自らの運命さだめを迎えるまで、生きているが良い」




 かくして、悪意――歪んだ概念の全てを屠った謎の機体は、再び高高度に位置して世界を見守ることを継続するのであった。


---


★感想

 緊急事態終息宣言。また同様の事態が起こる可能性は残されているとはいえ、ひとまず歪曲わいきょくされ強化された概念体は全て屠った。


 ……結局、有原陣営が総取りすることになった。なってしまった。

「白けるわこんなの!」というツッコミは甘んじて受けます。


 本編では描写していないが、強化された概念体が全て消滅させられたことで、間違いなく桜付きの存在がエッツェルにバレた。

 とはいえ、くどいようだが、「桜付きの存在そのものが」ではなく「自身と伍する力の持ち主がいる可能性がある」ということである。……なんでこの書き方にこだわるかと言うと、「少なくとも、描写されている限りエッツェルが桜付きを明確に認識した様子は皆無だから」という理由に尽きる。

 まあ、エッツェルからすれば「目障りな何かがいる」とでも認識してもらえれば十分。

 あと、たぶん日和さんにも存在がバレている。こちらは(事情により能力弱体化中とはいえ)おそらく明確に。


 さて、敢えて書くなら、この「ワールドワイド・フロンティア」は「神と黒竜王のゲーム」と評せるだろう。今回の概念体(インチキ三体衆)は、言ってしまえば「ゲーム、ないしはゲーム盤そのものをブチ壊しにかかる駒の領域を超えた“駒らしきナニカ”」である。

「それを書くなら桜付きもだろう!」となるのは承知の上だが、インチキ三体衆出現までのは、「対“駒らしきナニカ”」や「盤上調整、ゲームのルールを逸脱しすぎない程度の助力装置」に役割・用途を限定するためであった。今現在味方化しているとはいえ、姫神降臨ことキティはその「駒らしきナニカ」の最たるものである。よくよく見たらキティは(味方化するまでは)第三勢力だけど。


 とりあえず、今後も桜付きは、インチキ三体衆のような「駒らしきナニカ」を排除するために動かす。

 桜付きを駒の一つとして動かすのは、最終決戦……というのは“一応”据え置き。この三連戦、「駒らしきナニカ vs 駒らしきナニカ」だからね、定義上は。


 ――で、ファウストの感想に戻る。

 有原陣営的には「インチキ三体衆の中で一番最後に回しても大丈夫」だと思っていたが、実際その通りの性能だった。ただしこれは有原が予約・確保して行動をコントロールしたからであって、全ユニット(というか、「考える存在」全て)に対する脅威は正しく「世界の敵」である。エッツェルが送ってきた目的からして「世界の敵」なんだろうけど。


 そして、ファウストの設定には解釈の余地がたっぷりとあったので、効果範囲を「リア様の世界全域」に極限まで拡張した。ただし、「対峙しない限り無害」という設定を守るために、「領域の効果範囲内にただいるだけでは何も起こらない」とした。最後に出させていただくことになったので、このくらいのパワーアップはお許しいただけるだろう。


 禁止カードな桜付きだけあって戦闘そのものは三体とも一瞬で終わったが、ぶっちゃけ桜付きが長期戦にもつれ込まれたり苦戦したりするのは想像すらしたくない。

 視点を「ゲームプレイヤー」として見ている有原からすれば、(ソルト様に曰く“正直他陣営でも勝ちの目は十分にある敵であるとは思います”とのことだが)「何だこのルールブレイカーなユニットどもは!?」と、見た瞬間絶叫しかけた。流石“インチキ三体衆”。


 ……とりあえず、最後に二言三言程度述べてシメる。

 もう通常進行します。させてください。舞台裏で致命的な異常存在バグたち修復フィックスするのも楽じゃない。

 そしてやっぱ、桜付きは出すと戦闘そのものが瞬殺じみたことになるから、「如何に描写を長引かせるか」に腐心することになる。なのでストーリー的な面白さを考慮しても、最終決戦以外でなるべく出したくない。もう出したけど。


 三体とも、強すぎるっつーの!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る