第03話:良い雰囲気だと思いませんか?

 ん~、このパンケーキ、美味し~! 本当に口の中でとろけていくようですよ~。噂に偽り無しですね。

 やっぱり絶対に先輩も頼むべきでしたって。飲み物だけしか注文しないなんて、ダイエット中じゃないんですから。

 ほ~ら、このパンケーキを見てくださいよ~。ふわっふわでもっちもちなのに、口の中に入れるとシュワーってとろけるパンケーキですよ~。パンケーキの風味を邪魔しないように甘さ控えめな生クリームもイチゴも、相性抜群で絶品ですよ~。ほ~ら、だんだんと先輩もパンケーキを食べたくなってきませんか?

 もう、しょうがないですね。哀れな先輩に私のパンケーキを一口だけ分けてあげましょう。

 はい、どうぞ。ア~ン。……なんですか、恥ずかしがらないでくださいよ。私まで恥ずかしくなっちゃうじゃないですか。

 それじゃあ、もう一度。ア~~ン。……どうです? すっごく美味しいでしょ? えへへ。


 ここ、パンケーキも美味しいですけど、お店の雰囲気も良いですね。

 レトロな感じで統一された店内。明るすぎない照明。かすかに流れているクラシック音楽。

 ゆっくりと落ち着けますね。一緒に来れたのが先輩で本当に良かったなぁ。


 ところで、さっき見た映画、先輩は面白かったですか?

 ……へぇ、そんなに面白かったんですね。先輩が面白いと思ったところ、もっと聞きたいです。一番印象に残ったシーンはどこでしたか?。

 え、私が一番印象に残ったシーンですか? ……あ、えー、う~ん……ひ、秘密です。「もしかして、寝てた?」って、そんな訳ないじゃないですか! 心外です! ちゃんとずっと起きてましたよ。……せっかく先輩と一緒に映画を観に行ったのに眠っちゃったりしませんよ。

 むうぅ。「じゃあ、一番印象に残ったシーンがどこか答えられるはず」ですか。そりゃあ、印象に残ったシーンくらいはありますよ。……えっと……その……せ、先輩の横顔、とか?

 ……じょ、冗談ですよ! それじゃあ、まるで私が先輩の横顔に見とれていて、うわの空になりながら映画を観ていたみたいじゃないですか! やだなあ、もう。そんなことあるはずないじゃないですか。アハハハハ……。

 ………。

 むぅ。先輩は、私の発言が冗談かそうじゃないか……というか、本当なのか嘘なのかをもっとちゃんと考えてくれたって良いと思います。これだけ言ってもどうせ気付いてくれないんでしょうけど……。いえ、こっちの話なのでお気になさらずに。むぅ。


 さっき観た映画といえば、エンディングの曲が凄く良かったですよね。片思いしてる女の子の心境が上手く曲調と歌詞に落とし込まれている感じで。すごく気に入っちゃいました。

 ほらほら、見てくださいよ。さっそくスマホにダウンロードしちゃったんですよ。

 そうだ。折角ですし、先輩も一緒に聴きませんか? イヤフォンを用意するので、ちょっと待ってくださいね。 えっと……あったあった。それで、片方を私の耳につけてっと。

 はい、先輩。私が直々に先輩のお耳にイヤフォンをつけて差し上げます。顔をこっちへ近づけてもらえますか? もっと。もっと近づけてくださいよ。よいしょ、っと。どうですか? きつくないですか?

 それでは、音楽を流しますね。

 フフ~ン♪ フフフ~ン♪

 ……ん? どうしたんですか? え、「無線のイヤフォンなのにお互いの顔を近づける意味があるのか?」って? 解ってないですねぇ、先輩は。こっちの方が、雰囲気がでるじゃないですか? 「どんな雰囲気なのか?」って? ……そのくらい自分で考えてくださいよ。先輩の鈍感バカ。

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