第30話 1-7-5 成斗の変化

1-7-5 成斗の変化 耳より近く感じたい



ーー学園祭後の週明け月曜日


 高校での初めての学園祭が終わり、週明けの月曜日、音波が登校すると、校門で数人の生徒が大きな声で何やら呼びかけている。



「学園祭で撮った写真の提供にご協力くださーぃ。学校のホームページ又は卒業アルバム用に使用しまーす」



 登校してきた生徒たちに案内の紙を手渡している。


 音波も紙を受け取り、四つ折りにして制服のポケットに仕舞った。



 下駄箱で靴を履き替え、階段を上り二階の教室へ歩いていき、途中で足を止めた。


(ああ、やっぱり。男子が言ってたとおりになってる…)


 前後のドアと閉められた窓ガラスから教室を覗き込む女子たちで溢れかえっているのである。



 田中のいる2組の前も人集りが多いが、3組は2人も軽音楽部がいるので相当な数である。


(なんか、前も似たようなことあったな)


 音波は、そう思いながら女子たちの間をかき分け、なんとか前のドアから教室に入ることが出来た。



「あーっ、来た来た音波」


 梶が音波の腕をガシッと掴んで、教室の奥に移動する。



「おはよう実花。凄いことになってるね」


「そうなのよ!もうね、窓開けられないの、カギして閉めてんの」


「片山くんたち大変だね、廊下側の席だから」


「うん。まだ佐藤たち来てないよ。

 多分何処かに隠れてるんじゃないかな」



 言われてみれば、姿がない。


(前は確か、片山くんの眼鏡が壊れてホームルームの始めに来たんだっけ)



 ようやく予鈴が鳴り、これまた前回同様女子達が残念そうに散っていく。


 まだ片山たちは来ない。



 本鈴のチャイムが鳴り、大きな紙袋を数個持った担任が教室に入り、続いて脚立を抱えた片山と佐藤も入ってきた。



「みんなおはよう。


 学園祭はお疲れ様だった。


 お前たちは初めての学園祭だったが、学祭後は片山や佐藤のように騒がれる奴が毎年必ず出る。


 2、3年生のクラスでもココと同じようになっている。


 で、他の生徒への弊害等を考慮して、学祭後暫くは廊下側にこのカーテンを付けることになっている」


 そう言って、担任は紙袋から白い布を取り出した。



「上にポールが付いてるだろう、今からつけるから、ちょっと机移動してくれ」



 廊下側の生徒が机をずらす。


「俺と片山が上って付けるから、佐藤とあと男子誰か、脚立を支えてくれ。

 女子はカーテン広げて」



「へえ、何でポールがあるのか不思議だったけど、このためだったのか」


「カーテンあったら中が見えないし、外も気にならなくなるね」


「良かったね佐藤。片山も安心して昼休み寝れるなw」



 すると、片山が珍しく返事した。


「…ずっと寝てたい」


あははは…



 カーテンを付け終わり、机を元に戻す。


「よーし、じゃあ出欠とるぞ」



(ーこのクラスは仲が良いな、このクラスで良かったな…)


 音波は思った。


ーー

 学校内の教室にカーテンが付けられてから、目当ての人を見ようとするギャラリーは次第に減っていき、学期末テストが終わる頃には、普段の落ち着きを取り戻していた。



 だが、音波は次第に不安になってきた。


 原因は片山だ。


 学園祭以降、なんとなく態度がおかしい。



 今まで通り、普通に話しているように見えるが、どことなく距離を取られているように感じるのだ。


 そして…、



(片山くんの雰囲気が、ちょっと変わった)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る