第27話 1-7-2 「…助かる、」

1-7-2 「…助かる、」 10月学園祭準備 耳より近く感じたい


ーー

一方、


 コスプレ部の部室では、軽音学部の衣装合わせが始まる。


 片山達1年も、学園祭で衣装を着る。


 コスプレ部は、男子よりも女子の部員数が多い。



 1年の担当は1年が受け持つことになったので、5組男子の中條なかじょうと女子2人が片山達の衣装合わせをすることになった。



 初顔合わせのため、部室の前で片山達は待つ。


 佐藤が小声で片山に言う。


「成斗、お前中條にやってもらえ、俺と田中は女子にやってもらうから」


「…ああ」



 これを横で聞いていた中條は、疑問に思う。


(何言ってんだ佐藤、女子のほうが片山をカッコよくしたいのに…。

 考えなくても、普通、俺が田中だろ?

 何で俺が片山担当なんだ?)



 「…」


 中條は片山を見る。



 遅れて担当の女子二人がやって来た。


 すかさず佐藤が女子に言う。


「ねえ、君たち俺と田中やってくれない?

 片山に負けないくらいカッコよくしてよ、お願いっ」



 田中が言う。


「へ?俺もいいの?」


 佐藤が田中の肩を叩く。


「田中は前に出るんだから、女子にカッコよくしてもらわないとダメだろw」


「そう?片山、悪いな」



 脱臼事件で人気が上昇した佐藤に言われ、女子たちは一つ返事で了承した。


 佐藤は女子二人を連れ、田中と一緒に衣装が置いてある部室に入っていく。



 中條は納得していない。


「おい片山、普通、お前と佐藤が女子だろう?何で俺なんだよ…」


「…別に、」


 片山は下を向く。



 そこに、三年生の女子が片山を見つけてやって来る。


「あー、体育祭の時のイケメンじゃないの。


 何でワザとそんな眼鏡つけてるの?取ればいいのに」


 と言って、片山の眼鏡を取ろうとする。



「ワザとじゃない、眼鏡無いと本当に見えな…」


 中條に疑われたのもあり、下を向いていた片山の反応が遅れた!



(ハッ!)


「あっ、やめろ!」


バッ!


 眼鏡…自分に迫る女子の手を左手で払い除け、逃げるように後ずさり、顔を右腕でかばう。



 三年女子はムッとして言う。


「なによ、ケチねぇ。

 そんなに嫌がらなくてもいいじゃない」



「ほんと…むり、だから…」



「…もういいわよ」


 そう言い、三年女子は部室に入っていった。



「お前、…ちょっとコッチ来いよ」


 片山の異様な行動を見た中條は、顔をかばう片山の腕を掴み、部室のドア近くから移動する。


 廊下から死角になる所まで片山を引っ張っていく。



「離せ、中條」


「…」



 死角に入ると、中條は片山の腕を掴んだまま、顔を近づけ、小声で訊く。



「片山、もしかしてお前、…女が怖いのか?」


「!…」



(…今まで何とか上手く避け続けてこれたのに、こんな事で…)


 片山は何も言わず、中條から顔をそむける。



「ハッ、こりゃあ驚いた、お前みたいなイケメン野郎が、女がダメとはな」


「…っ、」


 片山は、もう中條は誤魔化せないと判断し、諦めた。



 中條は、言う。


「へぇー、そう、勿体無いっていうか、可哀そうっていうか。


 お前なら、どんだけでも遊べそうなのにな」


「…」



 中條は、掴んでいた片山の腕を離し、今度は片山の肩をグッと掴む。



「…わかった、いいぜ、お前は俺がやってやる。


 どうせ女子は佐藤が上手いこと誘ったみたいだからな。


 うちの部は女が多いから、出来るだけ時間ずらしてやってやる」



「え…」


 最後の言葉に片山は驚き、中條を見る。



「俺、やるって決めたらやる主義だから、後で連絡先教えろよ」


 中條はニヤリと笑い、きつく掴んでいた肩から手を離す。



 そして、続けて言う。


「あ、そうそう、心配しなくてもいいぜ、誰にも言わねえから。


 お前がボロ出してバレるのは知らねーけどな」



「…中條、」


「ほら、行くぞ」



「…助かる、頼む」


 片山は、ボソッと言った。


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