第4話 オレンジとミント

 なんか、体がだるいわりに、結構いい感じで、テストには挑めた。


 そして、帰りのHRして、今日は日直なので、掃除の終わった部屋で仕方なく日誌をつけてる僕だ。


 ちなみに、一花といえば、僕と違って進学コースの1組なので、夫である僕とはクラスが違う。


 ちなみに僕は3組で、普通科なクラスなわけだ。


 「なあ」


 って声がかかるんだけど、それとどこか爽やかな香り。なんの香りだろ?


 「最後まで日誌付けてもらって悪いけどさ、さすがに自分の名前くらいは書かせろよ」


 とか言われる。


 スラリとした美人さんが僕の座る机の横に立ってる。


 本当に、腕も足も長い。


 そして、そんな文句を言うのは、鮫島 優さん。


 妻の親友だ。


 そして物々しい苗字ではあるけど、特に兇暴という事も無いが最強だ。


 女子ボクシング部のエースだったりする。本人曰く、ストロングスタイルらしい。


 ライト級で、背も高くスタイルもいい。


 ボンキュンボンだって話だ。一花談だけど。


 その身長差と、上から叩きつけられるチョッピングライトで僕なら一撃でKOされそうだ。


 もちろん、そんな人ではないことは知ってる。言葉遣いはざっくばらんな感じだけど。


 「テストどうだった?」


 なんて聞いて来る。


 「まあ、普通にできたよ」


 って答えると、


 「一花に教えてもらってんだろ? なら結構できてるだろ?」


 そう言って彼女は僕の前に机を挟んで座った。


 僕は日誌をクルリとまわして、シャーペンを彼女に渡した。


 「ありがとう」


 と言って彼女は名前を書く。


 「一花は?」


 って聞かれるから、


 「ああ、一花も日直だよ、先に終わった方が迎えに来るって感じだ」


 っていうと、


 「ふーん」


 って言った。


 そして、


 「なあ」


 って突然聞いて来る。


 「なに?」


 「あのさ、単刀直入に聞くけどさ」


 僕は質問者の顔を見た。


 すると、彼女、鮫島優さん、恥ずかしそうに目線をそらすんだよね。


 で、聞いてきた。


 「結婚ってどうなんだよ?」


 「どう?って 何が?」


 質問に対して質問で返してしまう僕。だって、その内容が多岐にわたりすぎて、何に対しての質問かわからなかったからさ、こんな聞き返しになってしまう。


 「いや、だからさ…」


 しばらく考える鮫島さんは、


 「ほら、お前たちって、普通に幼馴染じゃん」


 て言うんだよね。


 「うん、そうだね」


 「でもさ、特に二人で付き合ってるってなかったよな?」


 確かに、僕らは結婚した当初、仲は良くいつも一緒だったけど、特に恋人ってわけでもなく、まして婚約していた事実もない。


 だから他人からしたら、廻りから見ると、いつの間にか、突然に結婚したって思われるのも少なくもない。


 でもまあ、一花の親友な、鮫島さんに、今更そんなことを尋ねられるなんて思いもしないから、ちょっとはびっくりして、で、なんでそんなことを聞いてくるのか、とか、興味があるのかちょっと不思議だった。


 そして、結婚した理由については、僕よりもきっと一花の意思が大きいと、今も思ってる。


 きっと一花は僕を一人にしたくなかったんだよ。


 友達でも無く、恋人とかでなく、家族が必要だって、僕の事を僕以上に考える、僕を知る一花はそう思ってくれたんだ。


 だからかな、そんなことを考えると、自分がさ、笑ってるのがわかるんだ。


 楽しとか、おかしいとかじゃなくて、嬉しいって笑い方。


 でさ、そんな感情を伝えようとする僕の唇は、不意にふさがれてしまうんだよ。


 一花のモノじゃない、だからそのリップクリームから、唇の温度で揮発する香りはオレンジではないミントと知らない唇の感触に、僕は今の現状と、妻ではない彼女との距離と触れ合う箇所に、いまだ認識できないでいたんだ。


 

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