第84話 放課後の二人。−6

「じゃあ…、白川はあの先輩と付き合ったのか?」

「はい…」

「それでよかったんじゃない? 結局、二人が付き合うことになったから…」

「あの時は私もそれだけでいいと思ってました。花田菜月が何をしても、私とはもう関係ないこと。昔のことは忘れよう…と」

「でも、そう簡単にはできなかった…」

「はい…。それは私が、先輩と付き合ってから一週間後の話です…」


 ……


 好きだった先輩が私のそばにいてくれて、とても幸せだった。

 少しずつ前の明るい顔に戻ってくる先輩とほぼ毎日デートをして、先輩は私の足りない何かを満たしてくれた。一緒にいるとドキドキして、笑顔になってしまうのはすごく気持ちいいこと…。ずっとこのままでいたかった。


「……先輩?」

「うん! 葵ちゃん」


 そして何かあったのか分からないけど、先輩は少しずつ変わっていく。

 正確には、何かに怯えているような姿が見えていて…。それがあってから、先輩は二人で何かをするのを嫌がっていた。もちろん私に直接話したことはないけど、そんな雰囲気を出しているから…。


「先輩最近顔色が悪いけど、大丈夫?」

「うん…? い、いいよ! 気にしなくてもいい!」

「そう…?」


 たまに見えることだったから、気にしなくてもいいって先輩はそう言った。

 でも、そう言った先輩はいつからその笑顔を失ってしまう。その理由は私にもよく分からなかった。そして数日後、また先輩からの連絡が切れてしまった。


「……」


 先輩は数日前に「またね」と言ってから、私に連絡をしてくれなかった。

 それに不安を抱いた私は何度も先輩にL○NEを送って、電話をかけてみたけど、また「ごめんね」という4文字を送る先輩だった。慌てて、何をしたらいいのかを考えるより、心が痛くなって精神が壊れそうな気がした。わけ分からないこの状況。先輩はあの日から、姿を消してしまった。


 そして私は先輩と一緒に過ごした時のことを思い出してみた。

 先輩が消える前、私にわけ分からないことを話がことがある。「誰かに見られてるような気がする」とか「一人暮らしをしている部屋に誰が入ったような気がする」とかちょっと危ないようなことを話したけど、確実な証拠がなくて警察を呼ぶのができなかった…。自分の勘がそうだと、先輩は話したことがある…。


 だから私が「今度先輩の家に行きます」と言ったけど、それにびっくりした先輩は「ダメ!」だと言い放った。その顔をまだ覚えている。


 私に言えない何かがあったかもしれない。

 でも、それを話してくれないから…私も先輩を手伝ってあげるのができなかった。今はどこで何をしてるのかなと、一人で考えるだけ…。住所も知らないから、そっちに行くのもできない。また、こうやって私の恋が終わってしまった。


「……バカみたい」


 先輩の体に残っていたその数多い傷痕は…。

 ずっとそれが気になっていたけど、先輩はもうそばにいない。


「うるさい…! お前らに俺の何が分かる!」


 その声が駅で響く前までは…。


「せ、先輩…?」


 人の多いこの場所で、先輩は刃物を持っていた。

 大声を出して誰かを脅かしている。何が起こってるの…?


「えっ…?」


 私の目に入ったのは倒れているお姉さんの姿と、お姉さんを殺そうとしている先輩の姿だった。早く止めないと、本当に大惨事が起こる一触即発の状況だった。急いで二人のところに行こうとしたのに、後ろにいる人たちが私を止めた。


 先輩の腕には知らない傷痕がいっぱい残っていて、私と付き合った時より…もっと痩せてるような気がした。もしかして、先輩はお姉さんに…。花田菜月に嫌なことをされたんじゃないの…? 私の前で姿を消したのも…。


「ダメ…! やめて、先輩!」


 人々が逃げるその場で、私の声は届かない…。

 すると、ある男がいきなり飛び出してあのナイフに刺されてしまったのだ。


「やめろ…!」

「動くな!」


 血を流して、花田菜月の上に倒れたあの人は「柏木尚」…。

 床にスクールバッグを投げ出した時、その中から名札が出てきたのだ。私はそこにいた。あの3人のことを後ろから見ていた…。全部、知っていた。


 そして先輩は最後の面会で、私に話してくれた。


 全部花田菜月のせいだと、執着しすぎて…何をやってあげても満足できなくて。そこから逃げようとしたと…。最初は「もう無理だから別れよう」と話したけど、花田菜月にはそれが伝わらなかったかもしれない。それからずっと先輩のことを探していた。理由は分からない、ただ自分は花田菜月に監禁されていて…。花田菜月は歪んだ形の愛をしていたと、私に話してくれた。体に残っている数多い傷痕は全部花田菜月が残したこと…。先輩はずっと逃げたかったって言った。


「あの人には、人の好感を感じさせてはいけない…」

「はい…?」

「俺はもうダメだ…。あの人は俺の人生を壊したんだ…」


 そして…、先輩は花田菜月に欠けていることを話してくれた。

 それは花田菜月を見てきた私に、すごく不思議な一言だったかもしれない…。


「あの人はを知らない…」


 いつも…、周りの人たちに愛されてきた人が…? そんなことを…?

 私が覚えている花田菜月とは違って、先輩はあの人を愛情を知らない人だと話したのだ。

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