第74話 白川葵。−2
街灯の後ろから出る人は尚くんと同じ学校の人だった。
もちろん知っていたけど、ここまでくるとは思わなかったよ。花田菜月…。私に取られるのが怖いの…? ねえ…、尚くんを私に取られるのが怖いよね? 元々、尚くんを尾行していたはずのあの人がここにいる理由は…。私を警戒するため…。
そして、もう確信ができたみたいだ。
「なんで、そんなことをしてるんですか? 尚くんの友達なのに…」
「私は…、私には選択肢がなかったから…」
「あの人に振り回されるのも嫌ですよね?」
「でも…、私は…」
街灯が切れている薄暗い道の真ん中、私たちは話を続けていた。
顔すらよく見えないこの距離…。近づくのは危険だから、距離を置いて彼女の動きに気をつけていた。そして、尚くんはこの人がずっと後ろについていることすら知らない様子だった。遊び場で待つ時も、一人だけ…全然気づいていなかったからね。
鈍感すぎ…、尚くん。
「もうやめましょう! こんなことをしても、尚くんは振り向いたりしません…!」
「……知ってるよ」
「じゃあ、どうして利用されているのを知っているのに…。そんなことを…?」
「あの人の話に従うと…、もらえるから…」
何を言っているのか、その部分がよく聞こえなかった。
「……今日は帰る」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
あの人を逃したのは私のミスだった。
ちゃんと説得しないと、またややこしくなるはずだから…。
あの人とはちゃんと話すべきだったのに…、こうなると仕方がないよね。
「……チッ」
今の私には尚くんと直接会えるチャンスもないし…、こっちから呼び出すこともできない。
だから、楓先輩を通して間接的に呼び出すしかなかった。
時間がない…。
そして…。
「尚くんは自分の力でそこから逃げるしかないよ…」
尚くんを落とすのはもう無理だから、あの人に感じさせるしかない。
虚しさを…。
……
「……」
そして、お母さんと二人で住む小さい家に帰ってきた…。
静かな部屋で昔のアルバムを開くと、まだ捨ててない最後の一枚…4人で撮った家族写真が残っていた。あの頃のお父さんとお母さん、花田菜月、そして私が笑顔で写真を撮っていた。どうして、これを捨てなかったのかな…? バカみたい…。
「……あの時に戻りたい。何もなかったあの時に…」
ぼとぼと…。
「あれ…?」
懐かしいあの時…。
もう何も残ってない過去に…、こっそり涙を流す私だった。
……
———翌日。
私は約束通り楓先輩とデートをしていた。
この人は尚くんの友達だから、ちゃんとそばに置いておかないと…いけない。
「葵ちゃん…。昨日何かあった? 元気なさそうね?」
「うん…? そう? 寝不足かな…? 勉強してたから…」
「へえ…、勉強熱心だな…」
「先輩もちゃんと勉強してますか…?」
「……少し…」
「フフッ。あ、そうだ。学校で柏木先輩と話してみましたか?」
「それ…、尚めっちゃ忙しいって言うから…。今日家に行ってみようかなと思ってるけど…」
尚くんの家…。
「じゃあ、一緒に行ってみませんか? ゲームとかして、遊びましょう!」
「それいいね! 行ってみようか!」
「はい!」
私一人で行くことより…。
楓先輩がついている方がもっと安全だと思って、すぐ尚くんの家に向かう二人だった。
「あのね。葵ちゃん」
「はい」
「もし、尚が本当に葵ちゃんが言ってるようなことをされたら…? どうする?」
「あの時は友達として、そして後輩として…。助けてあげるしかないんです…」
楓先輩がいれば、あの二人の仲を引き離すのができる。
多分、尚くんの家であんなことをしているかもしれない。二人であんなことをするには…、ちょうどいい時間だから。その汚い手で尚くんの体を隅々まで触ることを思い出すと、いきなり吐き気がしてイライラする。
「あっち」
「はい!」
すぐベルを押す楓先輩。そして気のせいかもしれないけど、このマンション…本当に人が住んでいるの…? 5階の奥にある尚くんの部屋、これはちょっと気になる。それと、その隣にある部屋から嫌な予感がした…。私が疲れたからかな…?
「あれ…? いないのか? 確かに、今日はすぐ帰るって言ったけど…」
「そうですか?」
「せん〜ぱい〜! いませんか〜!」
大声で呼んでみたけど、やはり家にはいないのかな…?
あの花田菜月が外で何かをする人には見えないけど…、本当に家にいないの…?
ドン———!!!
「うん?」
「この音は?」
「こっちです…」
今の音は確かに隣の家から聞こえたよね…? ここじゃなくて、隣の…。
「どうやら、家にいないようだな…。葵ちゃんはどうする? このまま帰ってくるのを待つには、帰る時間が遅くなりそうだから」
「ですよね…」
先から気になる502号室。
「葵ちゃん…?」
「あ、はい! 楓先輩」
「今日はこの辺で帰ろうかな?」
「はい…。でも、私…今日は一人で帰ります! 買いたい物を忘れちゃって!」
「そっか…。分かった!」
楓先輩と別れた後、このモヤモヤする気持ちをどうにかしたかった。
あの家から誰が出るのか、それが気になる…。急いで戻ってきた私はこっそり電柱の後ろに隠れて、マンションがある方向を見つめていた。
まさか…、隣に住むとか…じゃないよね?
「……?」
すると、あの家からパジャマ姿の尚くんと花田菜月が出てきた。
「そんな…」
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