第18話 クリスマスイヴ。−2

 ———クリスマスイヴ当日。


 真冬の寒さに耐えながら、俺たちは繁華街の時計塔で待っていた。


「はあ…」


 小柄な身体にぴったり合う服、今日は本当にデートをしてるような気がした。

 そばで話しながらこっそり手を繋ぐ花田さんは、いつもの明るい笑顔で俺を見てくれた。今日は彼女が買ってくれた服を着て、ペアルックをしているけど…。周りの人にちらっと見られるのが気になって、まだ緊張している。


「花田さん…」

「うん?」

「足、寒くないですか? タイツじゃなくて、ズボンをはいた方が…」

「それは可愛くない…。こっちの方がもっと可愛い…、尚くんもスカートの方が好きでしょう? その…小説にも書いていたし…」

「どうしてそれを知ってるんですか…!」

「へへ…、なんとなく」


 ……いつ、俺の作品を読んだんだ…。


「やっぱり…、マフラーを巻いてあげます…。寒そうに見えるから」

「うん…」

「もうちょっとで約束の時間ですね…」

「うん…。マフラーから尚くんの匂いがする…」

「外でそんな恥ずかしい話は勘弁してください…」

「ひひっ…」


 すると、向こうの曲がり角から二人の姿が見えてきた。


「エル…!」

「菜月だ〜」

「尚くん、尚くん! こっちは私の大学友達木下きのしたエル! えっと…」

「うん。こっちは私の彼氏高橋仁たかはしじん!」

「よろしくお願いします…。そっちは…?」


 やっぱり大学生か…、高校生とは違う雰囲気がして不思議だった…。

 てか、俺はどうして大学生の二人にびびってるんだろう…。まだ他人とこうやって話すのが苦手なのか…。顔に出せなかったけど、俺は心の底に沈んでいる意味不明の不安に囚われていた。


「柏木尚です。よろしくお願いします…」

「へえ…、柏木くん…。本当に高校生なんだ…!」

「は、はい…」

「君が柏木くんか、よろしく」

「は、はい!」


 笑みを浮かべる花田さんが俺の頭を撫でてから、木下さんが予約をした近所の高級レストランに向かった。


「イヴはやはり人が多いよね…?」

「そうだよね…」

「ねえ、菜月。柏木くんすごく緊張してるけど…?」

「そう…? 尚くん、緊張した…?」


 二人の前で体をくっつける花田さんは、微笑む顔で腕を組む。

 やっぱり…、「知らない人とご飯を食べるのは苦手です」とは言えないな…。なんか、先からすごく見られてるような気がしてあの二人から目を逸らしていた。


「ちょ、ちょっと…」

「ねえ、柏木くん」

「はい?」

「菜月のどこが好き?」

「あっ! エル、それはずるいよ!」

「いいじゃん〜。高校生との恋愛…! ワクワク」

「えっと…」


 ちらっと花田さんの横顔を見て、正直何を言えばいいのか分からなかった。

 それよりどこが好きという質問は「ここが好き」って特定できることなのか? 俺は花田さんという人自体が好きだから、そんなことを考えたことない…。優しいところとか、可愛いところとか…、俺に気遣ってくれることも…全部含めて花田さんだから…。やはり特定できないな…。


「うん? どこが好き?」

「こ、心が優しいところが…」

「可愛い———。菜月、優しいよね…? 私も知ってる〜」

「恥ずかしいこと言わないで! もう…二人ともやーだ」

「柏木くんの前だから恥ずかしいのかな…?」


 この人…、花田さんよりからかうのが上手い…。

 そう話しているうちに注文したステーキが出て、この緊張感を維持しながら黙々と食べていた。


「あのさ、柏木くんはどこで花田さんと出会った? それが知りたい」

「え…、どこ…」


 お隣さん…じゃなくて、どこって言っても特に言える言葉はなかった…。

 ある日、偶然荷物を持ってあげて…、その目的地が偶然同じマンションだったことを言えるわけないよな…。それより高橋さんと木下さん…、すごく期待しているような顔をしていて緊張感がすごい。なんとか言ってくれだい…、花田さん。


「へ———」


 どうやら手伝ってくれる気なさそう…。

 花田さん…。


「うん! 私が尚くんに告白したの…」

「えっ…? マジで?」

「花田さんが…? 直接…?」

「うん。そうだよ…。初めて会った時に一目惚れしちゃって…!」


 そう言いながら自分のステーキを俺に食べさせる花田さん。

 なぜか、二人は驚いていた。

 花田さん…普段からどんなイメージなのか分からないから…、驚く二人の顔に共感できずぼーっとして頷いていた。


 もぐもぐと食べる尚の頭をなでなでする菜月。


「ラブラブだよね…。私…、大学で菜月がこんな顔をしているのを一度も見たことないよ。ある意味で柏木くんすごいね…」

「一体、花田さんは大学でどんな…」

「そこまで〜。私も普通の大学生だから…二人とも大袈裟!」


 俺のもまだ食べてないのに…、花田さんはまるであの二人に見せつけるよう、俺に食べさせてくれた。なんか4人でご飯を食べているけど…、俺たちとあの二人の間に壁が建てられたような気がする。


「ちゃんと食べてね…」

「一人で、食べますから…」

「尚くん、まだ風邪が治ってないんでしょう?」

「それでも、これくらい一人で食べます!」


 それに羨ましがるエルが、仁の前で口を開ける。


「仁くん、私にもあーんして!」

「……全く…、はいはい」

「あーん」


 普通のカップルだから、さりげなくこんなことをするんだ…。

 いつも花田さんがやってくれるから…。それがすごく恥ずかしかったけど、こうして見ると普通の愛情表現にしか見えない。俺たちも付き合ったらあんな風になるのかと一人で想像をしてみた。


「あっ、そうだ。柏木くん」

「はい…?」

「ちょっと話があるけど…」

「はい。なんでしょう?」

「ここじゃ言いづらいから、ちょっと席をはずそう」

「は、はい…」

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