第13話 私以外の女は知らない。−2
「……っ!」
「この日をずっと待ってたよ…?」
「ちょっと待って…!」
一年前からずっとこうなりたかったよ…?
「尚くんはあの女に騙されてるから…、私が助けに来たのよ…。ねえ…ちゃんと現実を見て! 尚くんはあんな女が好きなの?」
「……」
尚くんを床に倒して、その体に乗っていた…。
すごくドキドキする…。これは…、私がずっと欲しがっていた刺激だったかもしれない。やっぱり…尚くんしかいない。私の空っぽの心を満たしてくれる人は尚くんしかいないよ…。抗うその姿も可愛い…、私には見せてくれなかった顔だ…。可愛い。
すごく…、気持ちいい…。
でも、尚くんの初めては私じゃない、それが一番ムカつく…。そんなこと…、言わなくても分かる。あの女ならどんな汚い手を使ってでも、尚くんとやる人に見えていたから…。あのクソ女、こんなに可愛い顔をずっと独り占めしてきたの…? 本当に悔しい…。あの女に見せた恥ずかしい姿を私に見せてよ…。尚くん…。
「尚くん、あの女と二人っきりで…気持ちよかった?」
「な、何を言ってるんだ…。普通にご飯を食べるだけっ…」
その答えが気に入らなかったイロハが尚の首筋を噛む。
「……っ!」
「どう? 痛いでしょう? 尚くんがあの女とこっそり気持ちいいことをするからだよ…。私の心も痛いから…、我慢してね?」
「……」
イロハの鋭い糸切り歯に涙を流す尚だった。
「痛いでしょう?」
「……どうして、俺にこんなことをするんだ。何も…やってないのに…」
「本当に知らないの? デリカシーないね。尚くんは…」
その顔…、気に入ったよ。
私に噛まれただけでそんな可愛い顔をするなんて、やっぱり楓くんに住所を聞いたのは正解だったよ…。あんな女より私とやるのがもっと気持ちいいはずだから…。そして尚くんのその顔…、とても気持ちよくてもうたまらない…。
やっぱり、尚くんは私とやるしかないよね?
「俺は清水と喧嘩したくないから…、もうやめてくれ。こんなことをして、何が変わる!」
「だから…、尚くんは私と付き合うべきだった。いつもそばにいて、声をかけてあげたでしょう…?」
「私は今付き合ってる人がいるから…、清水の気持ちを受け入れない…」
「付き合ってないんでしょう?」
「はあ…?」
「私、見れば分かる…。尚くんはその質問にいつも緊張していたよね…? それが嘘だったから…。ねえ…、実は付き合ってないんでしょう?」
「……」
正解…。尚くんは優しい人だから、嘘つくのも下手だし…。
嘘をついたとしても、すぐバレるから…。その顔に出ている。
「……っ」
「じっとして、嘘をついた罰だよ…」
「はあ…? 何をしようとしてるんだ…?」
「尚くん…、私ちょっと危ない物を持ってるから動かない方がいいと思う」
イロハのスカートから出てくるカッターナイフに、びっくりする尚。
「それ…、は、犯罪だぞ?」
「尚くん…。こんなカッターナイフに切れることより、尚くんの言葉がもっと痛いからね?」
「や、やめろ…」
尚くんの体がすごく震えている…。
もしかして、カッターナイフが怖いの…? へえ…、よかった。あの女を脅かすために持ってきたけど、尚くんがすごくびびっていて使い道がもっと増えちゃった。どうやら体の力も少しずつ抜けてるようで、このままなら私の思い通りになる…。
あの女に見せてあげよう…。
自分の人を取られた時の痛みをね…?
「怖い…? 尚くん…」
カッターナイフを見ただけで恐怖感に包まれる尚だった。
「ねえ…、怖がらなくてもいいよ? 私の言う通り…、二人で気持ちいいことをしよう…?」
「はあ…」
体育授業で見たことある尚くんの腹筋…、ずっと想像していた尚くんの体だ…。
「……」
「力抜いて…」
「清水…、やめてくれ。頼むから…」
指先が震えていて、抗えない尚の体が固まってしまう。
声すら出てこないほど怯えていた尚に、もうできることは何もなかった。
「うんっ…。やっぱり、尚くんを食べた方がよかったかもしれない」
「……」
「じっとして、動いたら切るよ?」
「……」
そのまま尚の体を撫で回して、自分の欲を満たすイロハ。
「気持ちいい…」
にっこりと笑う彼女は、舌で舐めたところにキスマークをつけていた。
「……っ」
ちゃんと菜月に仕返しをするため、尚の体に自分の痕を一つずつ増やしていく。
「でも、やはり…首筋にもつけた方がいいよね?」
「……」
じっとしてるのも可愛い…。
「んっ…」
「……っ…」
「尚くん…、私の可愛いキスマークができちゃったよ? 見て見て!」
スマホのカメラで尚に見せるイロハ。
「……清水」
「ねえ! キスしよう! 私、尚くんとキスがしたい!」
尚くんの唇がすぐ前にある…。
私がずっと欲しがっていたのはこれだったよ…! ちゃんとキスをして、あの女に見せてあげたい…。これはが私の物ってことを…。
「……」
半裸の姿、横腹にはイロハのカッターナイフが触れていた。
やられっぱなしでどんな抵抗もしない尚の顔には、恐怖しか感じられない。
「キス…しよう…」
そして目を閉じたイロハが、尚と唇を重ねる。
「んっ…」
「……」
「気持ちいい…。尚くんもそうでしょう? 尚くん…好き…」
「……」
尚の唇についているイロハの赤い口紅。
「……」
開いているドアから入ってきた菜月は、キスをする二人に気づいてしまう。
くっついているイロハと怯えている尚。
そのままイロハの首を掴んだ菜月が、力ずくで尚から引き離した。
「セールだったから、尚くんの好きな物をいっぱい買ってきたのに…」
「ケホッ…! ケホッ…!」
「なんで、あんたが尚くんの家にいる?」
「……ケホッ、あんた…」
玄関まで飛ばされたイロハが、菜月を睨む時だった。
菜月の真っ赤な瞳に、すぐ殺されそうな恐怖を感じてしまうイロハ。それは尚を脅かす時とは違って、今まで感じたこともない本物の殺意だった。もしかしたらこの場で殺されるかもしれないと思ったイロハは、少しずつ後じさりをしていた。
「ひっ…!」
「へえ…、人の男に手を出す女か…最低だよね? イロハちゃん…」
とても冷たいその視線に、持っていたカッターナイフを落とすイロハだった。
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