不正の理由
「最後はシークレットデータについてだ。これは
画面の中の福山少佐が満足そうな顔で笑った後、立ち上がって動画の撮影を止めた。
「アラン、解除を頼むよ。一度解除してるから大丈夫だよね?」
大佐に促され、アランはパスワードを入力した。
ロックが解除され、画面にデータが表示された。
「何でバークス少年はパスワードを知ってるんだ?」
「ハッキングじゃないかな。アランはプログラミングが得意だから」
「それは凄げえな」
アーサーとカーライル中尉が感心している。
(ハッキングではないのだが……でも、わざわざ説明する必要はないか……)
実際は推測で入力したら解除出来ただけだ。
最初はハッキングを試みようとしたが、データが消える可能性があったので断念した。
後は福山少佐の性格からパスワードを推測して入力する方法だった。
(自分の名前と誕生日をパスワードにするヤツはいるけど、他人の名前と誕生日をパスワードにするヤツは初めてだったな……)
最初のデータは贈賄の記録だった。
受け取った日付、金額、送った相手の名前と素性が詳細に記載されている。
E.G.軍内部の贈賄の調査記録も記載されている。
贈賄を受け取った者の中にはロイド中将の名前も載っていた。
少佐が所属していたアジア方面以外の不正の調査記録があるのだ。
相当念入りに調査を行ったのだろう。
このデータが外部に漏れれば、E.G.軍は窮地に陥るだろう。
続いて、第一次宇宙戦争<灰かぶりの夏>の時の記録が表示された。
理由なく宇宙の民を排除した地球政府アースガバメントの樹立。
その2か月後に宇宙の居住地ブラック・ダンデライオンの各自治区が、宇宙連盟ブーケ・オブ・ダンデライオンを樹立した。
そして宇宙連盟ブーケ・オブ・ダンデライオンは、獅子の牙であるファングを結成して地球侵攻を始めた。
迎え撃ったE.G.軍の宇宙艦隊は壊滅し、地球各地に侵攻したファングと戦闘が行われた。
開戦当初は苦戦を強いられたが、3人の天才的なパイロットが戦況を覆した。
プログラミングで機体の性能を向上させ、圧倒的な格闘センスで戦況を覆したアジア方面軍の福山少尉。
偵察機を駆り、指揮能力で友軍を勝利に導いたアフリカ方面軍のメンサー大尉。
奇襲で多くの敵戦艦を撃沈したヨーロッパ方面軍のドーソン二等兵。
奇跡的にファングの侵攻を押し留められたE.G.軍は、反抗作戦の為の宇宙艦隊を結成した。
だが、ファング宇宙艦隊の攻撃を受け、E.G.軍の宇宙艦隊は再び壊滅した。
壊滅したE.G.軍艦隊の無数の残骸が地球周回軌道を覆う事で、大気圏突入が困難となり休戦状態となったーー
福山少佐はアースガバメントが樹立された時は、所属がE.G.軍になる程度の認識しかなかった。
少佐が最初に疑念を抱いたのは、宇宙連盟ブーケ・オブ・ダンデライオンが、獅子の牙であるファングを結成して地球侵攻を始めた時だ。
僅か2か月で結成されたはずのファングがE.G.軍より強大な戦力を誇っていたのだ。
だから思った、この戦争は最初から仕組まれていたものではないかと……
疑念が確信となったのは地上での戦闘に勝利し、反抗作戦が開始された時だ。
少佐だけではない、地上でファングを撃退した英雄3人の作戦参加が見送られた。
E.G.軍宇宙艦隊の戦力が足りない事は明らかだった。
だが、地上の守りを疎かに出来ないとの理由で戦力を出し渋り、E.G.軍宇宙艦隊は壊滅した。
あの時、戦力を集中してブラック・ダンデライオン本土に侵攻していれば、ファングに勝利していた。
停戦状態となった後もE.G.軍には不審な点があった。
戦時中にも関わらず軍の予算は少なく、E.G.軍内部では不正が蔓延し、ファングへの備えは行われていなかった。
だから、福山少佐は賄賂を受け取ってでも軍備を増強しようと考えた。
そこで登場したのが凛の父親である高木敏明だった。
高木氏は清掃会社の社長だったので、最初はE.G.軍基地の清掃の仕事を得たいだけだと思っていた。
だが、受け取った金額は清掃の仕事では賄えない額だった。
だから高木氏の目的は軍の内情で、ファングのスパイの可能性が高いと考えた。
しかし、高木氏を泳がせていたら別な目的も見えてきた。
高木氏は少佐以外にも賄賂を贈っていたが、送った相手は全て優秀なパイロット達だったからだ。
理由は分からないが、高木氏は軍人の引き抜きを行っていたのだ。
最後にE.G.軍と高木敏明に気をつけろと記載されている所で、福山少佐のシークレットデータは終わった。
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