失意のカーライル
凛は戦艦フリージアの廊下の窓から景色を眺めていた。
初めて見る宇宙の光景。
でも一緒に楽しんでくれる相手はいない。
親しかった年下の少年はいなくなった。
一緒に過ごしてきた
少し年上のとぼけた青年は心を閉ざした……
(折角の宇宙なのに、つまらないな。みんなと一緒に見たかったな)
「大丈夫かい、凛ちゃん?」
振り返るとカーライル中尉がいた。
(大丈夫かいって……中尉の方が辛そうじゃない)
出会った頃の自信満々な表情は無く、他人を心配出来るような状態だとは思えない姿だった。
「そのまま返すわよカーライル中尉。暗い顔してるけど大丈夫?」
「そうだよな……大丈夫には見えないよな」
「でも怪我が無くて何よりじゃない」
「そんな事あるか! あっさりやられて! 逃げ帰って! 全部アイツらに押し付けてぇ! のうのうと休んでる間にアランを失った! 怪我一つしてねぇんだよ俺は! せめて怪我の一つでもしてりゃ納得出来た……」
カーライル中尉が感情をむき出しにして叫んだ。
「怪我が無くて良かったじゃない」
「いいわけねぇだろ! 嬢ちゃんはアランを守れなかった俺を非難しないのか?」
「カーライル中尉が怪我してもアランは助からないわよ」
「そんな正論意味ねぇだろ! 俺をおちょくってるのか? 俺には嬢ちゃんの考えが理解出来ないねぇよ!」
「約束しただけよ」
「約束って何を?」
「一緒に悩んで考えてあげるって約束。今度こそ、本当にみんなの為になる方法を見つける。アランが経験した悲劇を、他の誰かに経験させなくて済む様に……だから私は正しい事を言う。たぶん、アランは私達を宇宙に送り届ける為に必死に戦ったと思う。だから、その思いに応えたい。アランの代わりに、みんなで戦い抜こうよ」
凛はゆっくりと噛み締める様に言った。
(アランが不在でも、私に戦う力が無くても、戦う気持ちだけは失わない! せめて、気持ちだけでも寄り添っていたいから!)
「そうか……」
「だから今は何も出来なくても、アランが進もうと思っていた道を突き進む」
「強いな嬢ちゃんは」
カーライル中尉が苦笑した。
「私は強くはないわよ。でもカーライル中尉は強いでしょ?」
「俺が強い? ロイドの事をアランに背負わせ、福山少佐に戦闘シミュレーターでボコボコにやられた。ノイが死んだときは艦長と談笑していた。宇宙センターでは、敵のエースにあっさりやられてアランを守れなかったのにか?」
カーライル中尉が驚いた顔をした。
戦闘で負け続けて、泣き言を言っていたのだから、強いと言われたのが想定外だったのだろう。
「戦闘で負けっぱなしなのは事実だよね。でも次の戦闘が始まれば、また戦うんでしょ? カーライル中尉には弱い自分自身から逃げない強さがある」
「弱い自分自身から逃げない強さか……」
「そう、そういう強さがあるのよ」
「ありがとう、嬢ちゃん。でも、俺はただ生き残ってしまっただけなんだよ。戦場でたまたま死ななかっただけだけの男だ。自分一人の命を守るのが精一杯で、アーサー達みたいに皆を守る力はないさ」
「それなら後少し。もう一人分だけ多く守ってみようとは思ってみない?」
「もう一人分?」
カーライル中尉が不思議そうな顔をしている。
(鈍いんだから! 中尉がもう一人守るって言ったら、直ぐに思い出す人がいるでしょ? 私がハッキリと教えてあげないと駄目ね)
「少しだけ欲張って、フィオナ艦長も守ってみようと思って欲しいな」
「フィオナちゃんを? 守りたいとは思っているさ。でも、俺は駄目だ! これ以上迷惑はかけらんねぇ」
「どうしてそうなるの? 艦長きっと待ってると思うわよ」
「調子狂うなぁ。この手の話題は苦手なんだよ。今の俺にとってはね」
「苦手で済まさないでよ。ほったらかしにしてると艦長怒ると思うわよ」
「お、怒ると言えばアイツだな。アーサーがお怒りだよ」
カーライル中尉が話を逸らした。
(甲斐性なしなんだから。フィオナ艦長が可哀そうね……でも、アーサーの事も心配なのよね。宇宙に上がってから、ずっと心を閉ざしていたから)
「アーサーは大丈夫なの? 少しは落ち着いた?」
「駄目だ。回収したシンセシスー1の腕をずっと眺めている。元々戦争をする様な奴じゃないんだよ。テストパイロットとしては優秀だったけどな」
「私達が支えないと駄目よね。アランがいないんだから」
「アーサーを支えるか……そんな時が来るとは思わなかったけどな」
「頑張りましょ! 臣下として!」
「臣下ね。今はアーサーの方が上官だから、それでもいいか!」
カーライル中尉の声に活力が戻った。
以前のノリを思い出して、少しだけ元気が出たのだろう。
「アーサーは私達の英雄だからね」
「そうだな。整備班はウォルフ技師長が居なくなっても頑張ってるんだ。負けてられねぇよな!」
「さぁ、行きましょ!」
凛はカーライル中尉の腕をつかみ、アーサーが居る格納庫に向かった。
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