密林の少年7

 アラン達はノイの妹のスーを連れ出す為に村に向かった。

 E.G.軍である事を知られたので、村で襲撃を受けると思って警戒していたが、普通に迎え入れられた。

 そして、ノイの家の近くに来た所で、数人の大人がいるのが見えた。

 手作りの木製担架にスーを乗せている。


「村長の指示です。どこまで連れて行けば良いですか?」


 こちらに気付いた大人の一人が言った。

 カーライル中尉が村はずれの空き地まで運んで欲しいと伝えると、黙ってスーを運んでくれた。

 最初は罠かと思ったが、運び終えると同時に黙って村に帰って行った。

 ノイの機体にスーを乗せた後、アランはウォルフ技師長を自分の機体に乗せた。

 修理に必要な物資をアランとノイの機体で運び、カーライル中尉が護衛しながら戦艦フリージアに向かった。

 物資輸送中に攻撃を受けない様に警戒していたが襲撃を受ける事は無かった。

 ファングの残党がどれだけいるのか分からないが、途中で襲撃を受けなかったから数は少ないのかもしれない。

 無事にフリージアに辿り着いたアランとノイはスーを医務室に連れて行った。

 後は軍医のアストンが適切に治療してくれるだろう。

 ノイの処遇についてはカーライル中尉がフィオナ艦長と交渉してくれる手筈になっている。

 まだノイの部屋は無いので、しばらくはアランと一緒の部屋で過ごす事になった。

 アランはノイを自室に案内した後、格納庫に向かった。

 ウォルフ技師長に確かめたい事があったからだ。


「やぁ、ウォルフ大佐。ご機嫌はいかがかな?」

「なんだ坊主。カーライル中尉のモノマネか? 何か用か?」

「あぁ、聞きたいことがある」

「それなら俺の部屋で話そう」


 ウォルフ技師長に部屋に案内された。

 普段と違うアランの様子から、何かを感じ取ったのだろう。


「で、俺に何を聞きたい? 聞かれちゃ不味い話なんだろ?」


 椅子に座ったと同時にウォルフ技師長が話を促した。


「聞かれて困る話かどうかはウォルフ次第だな。なぁ、何で大佐だって事を隠してるんだ?」

「メンドクサイからだ。俺は一度退役した身だ」

「退役? ウォルフは軍人だったのか?」

「あぁ、軍人だったさ。現役時代は悪魔と恐れられていたさ」

「悪魔だって? 軍人も悪魔もウォルフには似合わないな」

「似合わない事くらい分かっているさ。国を守るんだって夢見て軍人になってね。兵器の操縦は下手くそだったが戦術の才能はあった」

「戦術の才能か……それは良く分かるよ」


 アランはウォルフ技師長の話を聞いて腑に落ちた。

(技術職なのに戦況を読む能力が高かったのはそういう事だったのか。だから常に戦況にあった物を装備してくれていたのだな)


「操縦は下手くそでも指示を出せば友軍が大勝してくれる。そうして戦果を上げ続けていたら、気が付いたら大佐になっていたのさ。他国からは敵の指揮官に悪魔がいると恐れられたものさ」

「悪魔は言い過ぎと思うが、敵がウォルフを恐れるのは分かるよ。でも、何で技術者になった? 活躍していたのだろう?」

「自分の戦果を知ったからだよ。戦果報告で俺に敗北した敵国の実情を知った。俺の勝った後には悲しみしか残されていなかった……だから俺は退役した」

「それで技術者になったのか? 軍が嫌になったのにか?」


 アランにはウォルフ技師長の行動が矛盾している様に思えた。

 戦争が嫌になったのに、戦争を行う兵器の開発に携わったのが理解出来ない。


「退役した俺に出来る仕事は無かったからだ。現役時代に兵器のメンテナンスを少しかじっていた。だから、当時最先端の技術を持っていた宇宙、ブラック・ダンデライオンに移住して技術者として生きる道を選んだ」

「ウォルフが宇宙に……まさか戦艦フリージアに使われているファングの技術はウォルフの手によるものなのか?」

「そうだよ。俺は第一次宇宙戦争時にファングの技術者として参加していた。俺が拾った戦災孤児達を養う為だ。坊主も知っているフリージアの整備班の皆だ」

「ファングに所属していただと! 何故E.G.にいる! 答えろウォルフ!!」


 アランは初見で戦艦フリージアにファングの技術が使われている事を見抜いていた。

 だが、それがウォルフ技師長によってもたらさたものだとは知らなかった。

(ウォルフがアイツらの仲間だっただと! 俺から両親を奪ったアイツらの!!)


「戦争の真実を知ったからだよ。俺は馬鹿だよな。同じ失敗ばかり続けている」


 ウォルフ技師長が激昂するアランに静かに伝えた。


「戦争の真実? ウォルフは何を知ったのだ?」

「知らない方がいいさ。でも、もしも、坊主が真実を知りたければ『ヤナギ』を追え」

「『ヤナギ』? 初めて聞く言葉だな」

「前に行ったE.G.の信託統治地、かつて日本と呼ばれていた国の言葉で『柳』という意味だよ」


 ウォルフ技師長がE.G.の共通語で柳と言った。

 アランも柳という植物は知っている。

(実際に見た事は無いが、植物の名前だったよな? それが何故真実を知る鍵になるのだ?)


「俺は坊主が関わらないで済んだら良いと思っている。でも、坊主は真実を追うだろうから手がかりを残しておきたい」

「何故だ?」

「ファングを滅ぼしても戦争は終わらん。E.G.は滅ぶ為に生まれた政府だからだ。望み通りファングを滅ぼしても、恐らく坊主は納得しない事態となるだろう。だから俺の知っている事を伝えただけだ」

「E.G.が滅ぶ為に生まれた組織? 何を言っている?」

「俺が伝えられる事は全て教えた。話は終わりだ。他の奴に話すなよ」


 もっと話を聞きたかったが、ウォルフ技師長は口を閉ざしたままだった。

(ウォルフ技師長が元ファングの技術者。謎を解く鍵『ヤナギ』。E.G.が滅ぶ為に生まれた組織……情報が多すぎる)

 アランはウォルフ技師長から聞いた事を反芻はんすうしながら退室した。

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