大人なんだからね

 福山少佐に戦闘シミュレーションで敗北したアランは、モニターを観戦モードに切り替えた。

 最初は誤射を恐れて動きが鈍かったアーサーだったが、アランが退場した事で全力で戦えている。

 今回が一戦目で、あっさり敗北したアランと違い善戦している様に見える。

 だが、接近戦に持ち込まれると同時に、一気に形勢が悪くなった。

(まるで人間と棒使い人形の戦いだな。動きが違いすぎる)

 それが福山少佐とアーサーの戦闘を見て、アランが率直に思った事であった。

 アーサーの操縦技術は一流だ。

 だが、それは人型機動兵器の操縦という意味においてだ。

 チャリムは人型の兵器とはいえ、人とは構造が違う。

 関節は人体同様に動かないし、操縦桿とフットペダルで動かせる操作は限られる。

 あらかじめプログラミングしてある射撃動作、格闘武器の振り、簡単なパンチやキックを行う事しか出来ない。

 だが、福山少佐の操縦するアルダーンは人間の格闘家に近い動きを見せている。

 アランは自身の戦闘ログをモニターに表示した。

 シンセシスー1が機体を旋回させながら福山機のビームソードを受け流し、回し蹴りをしたシーンを表示した。

 普通の機体では行えない特殊動作。

 アランはこの時、福山少佐のアルダーンを蹴り飛ばしたと思っていた。

 だが、一瞬で脚部を切り飛ばされ倒されていた。

 何が起きていたのか確認する為に、全体が見渡せる視点に変更した。

 福山少佐が操縦するアルダーンは、シンセシスー1の回し蹴りをかがんで回避して、立ち上がると同時に肩でシンセシスー1の脚部を跳ね上げていた。

 そして、体勢を崩したシンセシスー1の脚部をビームソードで切り払っていた。

(そういう事か。分かったぞ、前大戦の英雄の力!)

 アランは福山少佐の強さの理由を理解した。

 操縦技術が優れているだけではない。

 最も優れているのは、機体の性能を最大限に生かせるチューニング能力だ。

 使用する機体の反応速度、出力を把握した上で、出力配分や各種動作のプログラムを自身の能力に合わせてチューニングしている。

 そして、量産機のアルダーンの格闘能力を、上位機体であるカリバーンや上位機体に準じるシンセシスー1と戦えるレベルに引き上げている。

(量産機のカスタム機に乗っているカーライル中尉が自信を失う程に負けるのも当然だな。あぁ、アーサーも負けてしまったか……)

 アランが福山少佐の戦闘能力を解析し終わった所で、ついにアーサーも敗北してしまった。

 戦闘シミュレーションが終了したので、ハッチを開けて機体から降りた。


「無残に殺されてしまったのは少年の方だったな。戦死した気分はどうだ?」


 福山少佐が偉そうに言った。


「たかがデータがやられただけだ! シミュレーターの機体データを破壊したぐらいで嬉しいのか?」

「嬉しいね! 生意気な少年をボコボコに出来たからね。それに分かっているのか? 実践だったら少年が死んでたんだぞ」

「分かっているさ。実戦なら死んでいた。でも実践じゃないから俺は生きている」

「それは屁理屈だな」

「いや、事実だよ。僕らは誰一人死んではいない」


 アーサーが力強く言った。

 汗だくで息が乱れているが目は死んでいない。

 アーサーも気持ちだけは負けてはいないようだ。


「そういう事なら諦められねぇな。年下が気合見せているのに、年長者の俺がヘタレていられねぇよな。今度は3人で戦うぞ!」


 カーライル中尉も立ち上がった。


「それは楽しみだな……と言いたい処だが時間が無い。フリージア隊は今日出航してもらう予定だからな」

「次に戦ったら俺が勝つ!」


 アランは立ち去る福山少佐の背中に向かって言った。


「その機会があればな」


 福山少佐は振り返らず去っていった。


 *


 福山少佐が去った後、アラン達は戦艦フリージアのブリッジに集まっていた。


「なぁ、本当に立ち去るのか?」


 カーライル中尉がフィオナ艦長に問いかけた。


「色々腑に落ちない所はありますが、補給は完了しているし、長居する理由もありません」

「俺はいいところが全くなかったな……」

「僕もですよ。敗走したみたいで気分が悪いですけど仕方ないですよね」

「俺も何も出来なかった……」


 カーライル中尉、アーサー、アランの3人は福山少佐一人に敗北した事を思い出して落ち込んだ。


「アランが落ち込んでる! 珍しい!」


 凛が楽しそうに言った。


「俺が落ち込んでいるのがそんなに面白いか?」

「面白くはないわよ。人間らしいところがあったのが嬉しいの」

「人間らしいって何だよ?」

「いつも自分はファングを倒す兵器でーすって態度してるじゃない。そんなアランが落ち込むなんて人間味を出したら嬉しくなるわよ」

「凛は俺をどういう目で見てるんだ!」

「おいおい痴話げんかですか、お二人さん」


 カーライル中尉に冷やかされた。


「痴話げんかじゃない!」


 アランが大声で否定すると、ブリッジクルー達が爆笑した。


「楽しくじゃれるのはいいけど、そろそろ出航するわよ。あの司令の嫌味を聞かされたくないでしょ? 戦艦フリージア出航お願いします!」


 フィオナ艦長の号令で、戦艦フリージアはState1のE.G.軍基地から出航したーー


 *


 戦艦フリージアが出航した後、司令室でさい司令と福山少佐はコーヒーを飲みながらくつろいでいた。


「アイツらは指示通り出て行ったかね?」

「出て行きましたよ司令に恐れをなしたようですね」

「で、先約のお客さんは迎えられそうかね?」

「諜報部の情報通り、来ているみたいですよ」


 福山少佐が諜報部が送ってきたデータをモニターに表示した。

 データの内容は、基地の戦力を上回る程の大部隊が侵攻してくるとの情報だった。


「ライリー・アーチボルト、中々優秀な男の様だな」

「いえいえ、司令の予測が完璧だっただけですよ」

「東アジアのE.G.軍がファングを撃退し続けているのだ。攻めあぐねた敵が地上の拠点を得る為にこの基地を狙うのは当たり前だ」

「それでも司令が偉大である事は事実です」

「さて、行きますか。あのような子供が戦っているのに、無様に逃げ惑う訳にはいかんよ。私達は大人なんだからね」


 さい司令が力強く拳を突き出した。


「最後まで司令にお供いたします!」


 福山少佐も拳を突き出し、さい司令の拳と合わせた。


「なぁ、シニチ。前から思っていたんだがね」

「何でしょう司令!」

「シニチ、話し方気持ち悪いね」

「はははっ、最後に言うのがそれですか……無念です……」


 そして、コーヒーを飲み終わった二人は、帰れる見込みのない戦場へ向かったのであったーー

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