戦闘シミュレーション

 基地を追い出されるまで残り1日。

 アランは何が出来るか考えた結果、アーサーの所に行くことにした。

 さい司令は簡単に情報を得られる相手ではないし、凛の父親について調べるには時間が足りない。

 だから落ち込んでいるアーサーを励ますのが最善だと考えたのだ。

 アランはアーサーに会う為、戦艦フリージアの格納庫へ向かった。

 普段アーサーは愛機のカリバーンの整備を行っている事が多いからだ。

 格納庫では、いつも通り整備員に混ざってアーサーがいた。

 だが、様子がおかしい。

 近づいてみたら理由が分かった。

 福山少佐がいたのだ。


「少年も来たか。ちょうどコイツが期待外れだって話をしていたところだ。本当にエースなのか?」


 福山少佐がアーサーを指差し馬鹿にした。


「負けるなアーサー!」

「アイツ、司令の腰巾着なんだろ!」

「俺達の英雄を馬鹿にすんじゃねぇ!」


 仲間を馬鹿にされて整備員達がいきりたつ。


「皆さん落ち着いて下さい。僕は大丈夫ですから」


 アーサーが手にした工具を投げつけようとする整備員たちを必死になだめる。


「僕だってよ。情けない奴だよな。そこの味方殺しよりはマシだったけどな」


 福山少佐に言われて気づいた。

 片隅で頭を抱えて座り込むカーライル中尉に……

(コイツは一体何をした? 何故カーライル中尉が敗北感に打ちひしがれた顔をしている?!)


「誰でもいいから状況を説明しろ!」

「負けたんじゃよ。福山少佐にな」


 アランの叫びに、ウォルフ技師長が答えてくれた。


「負けた? 何の勝負を?」

「戦争に決まってるだろ。俺達はチャリムのパイロットなんだからさ。残念ながら戦闘シミュレーターだから、間抜け共に死んでもらえなかったけどな」

「ウォルフ、準備しろ!」

「まて、アラン。お前さんまでやられたらフリージア隊は終わりだ」

「安心しろウォルフ。これはシミュレーションだ。無残に殺してしまっても問題にはならないさ」

「君ごときが私を殺すだと……笑わせてくれる! 相手をしてやろう」

「アラン一人に戦わせられない。ウォルフ技師長、僕も参加します」


 アーサーが慌てて戦闘シミュレーションに参加を表明した。


「知らんぞ! お前ら!」


 ウォルフ技師長が文句を言いながら準備を始めた。

 戦闘シミュレーションの操作はチャリムの実機を使用する。

 アランはシンセシスー1に乗り込み、戦闘シミュレーション・システムへ接続をした。

 ウォルフ技師長が準備した戦闘フィールドは平原だった。

 遮蔽物が殆どないので、不意打ちは出来ない。

 純粋な操縦技術が試される。

 福山少佐が乗るのはE.G.軍の量産機アルダーン。

 アーサーのカリバーン、アランのシンセシスー1より明らかに性能が劣る。

 兵器の性能では余裕がある。

 だが、相手は第一次宇宙戦争時の英雄。

 油断は出来ない。

 戦闘シミュレーションが始まって直ぐ、アラン機とアーサー機は、前方で大地に立つ福山少佐のアルダーン目掛けて飛行した。

 ビームライフルの射程範囲内に入った所で福山機が攻撃してきた。

 旋回して回避をするが、回避先を塞ぐようにビームが飛んでくる。

(回避先を読まれている?! 避けて見せろよ、シンセシス!)

 アランはギリギリのところで回避に成功した。


「懐かしいなリベレーン! 灰かぶりの夏以来だな!!」


 アランはビームの回避に専念していた為、福山機の接近に気付けなかった。


「リベレーンではないっ! シンセシスー1だ!!」


 アラン機と福山機のビームソードが激しくぶつかり合う。


「さぁ、まずは腕を貰おうかな?」


 福山少佐が宣言した。

(そう簡単にやられはしない!)

 アランはシンセシスー1を旋回させて、福山機のビームソードを受け流し、回し蹴りをした。

 シンセシスー1の脚部に衝撃が走る。


「やったか?」

「やられたんだよ、君が!」


 シンセシスー1が転倒する。

(さっきの衝撃は蹴りを受け流した衝撃か!)

 脚部に衝撃があったので蹴りが決まったと思ったが、実際は受け流された衝撃だった。

 ビィィィィィッ!

 警告音が鳴り響き、モニターが脚部が損傷した事を表示した。

 (脚部が切り飛ばされた。手ごわいな……イーサン以上の戦闘能力か?)


「宣言通りにはいかなかったか。残念ながら最初は足だったな」

「油断したな!」


 アラン機は倒れたままアサルトライフルを連射した。

 だが、福山機には銃弾が当たらず、逆にビームライフルでアサルトライフルを持つ腕を打ち抜かれた。


「アラン!」


 アーサー機がアラン機を援護しようと近づこうとするが、福山機のビームライフルに阻まれて近づけない。


「そこで見てろよ英雄もどき。今からこいつをバラバラにしてやるからさ。リベレーンの解体は得意なんだ」


 福山少佐が得意げに言った。

 彼は第一次宇宙戦争<灰かぶりの夏>時に、シンセシスー1のベースとなったファング親衛隊のリベレーンを多数撃墜している。

 だから、大げさに言っているのではなく、本当に得意なのだろう。

(それでも負けられないんだよ! 踏ん張れよ、シンセシスー1!)

 アランはスラスターを全開にして福山機に突撃した。


「自殺行為だな」


 福山機がシンセシスー1の脚を払い、投げ飛ばした。

 そして、うつ伏せに倒れたシンセシスー1にビームソードを突き立てた。

 シンセシスー1のモニターに敗北の文字が表示され、戦闘シミュレーターが終了した。


「強いな……だが、俺達にはアーサーがいるんだよ!」


 完全敗北したアランは、モニターの中で戦いを続けるアーサーを見守る事にした。

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