崔司令との対話

「済まなかったね。Mr.高木が戦争に巻き込まれた娘と再会したいと言っていたから会わせたんだけどね。仲が悪かったとは知らなかったよ」


 さい司令が凛に頭を下げた。


「父……高木敏明とはどのような関係なのですか?」


 凛が探る様に言った。


「Mr.高木はアジア方面のE.G.軍基地の清掃を受託している清掃会社の社長さんだからね。少し面識があるだけね」

「本当にそれだけですか?」


 凛が強い声で問う。

(凛が父親を疑っている? 俺には娘を心配する普通の父親にしか見えなかったのに)

 17才の少女が突然戦争に巻き込まれ、父親と再会したのだ。

 普通であれば、戦艦フリージアから降りて、一緒に実家に帰っても不思議ではない。

 だから、アランは凛が父親を疑うような態度を見せたのが信じられなかった。


「それだけとは何かな? 実は賄賂を受け取っているとか言った方が良かったかね?」


 司令が堂々と賄賂を受け取っていると言った。

 普通は冗談でも言えない事だ。

 だが、司令は無用な疑いがかかる事を考えもせず、ハッキリと言い切ったのだ。

 これには、父との関係を問い詰めようとした凛でさえ面食らった。


「賄賂とかそういうのでは……不審な関係だったりするのですか?」

「君の質問は意味が分からないね。聞きたい事があるならハッキリ言って欲しいね」

「ハッキリ……です、か……大丈夫です」


 凛が父について質問をする事を諦めた。


「何故凛の父を退出させたんだ?」


 黙ってしまった凛の代わりに、アランが問いかけた。


「何だその口調は。少年だからと言って許される事ではない」


 いつの間にか戻って来ていた、副官の福山少佐がアランに凄む。

 だが、アランは脅しには屈しない。


「お前には聞いていない」

「キサーー」

「黙りなさいね」


 司令が怒鳴りかけた福山少佐を一言で黙らせた。

(福山少佐はさい司令より明らかに強い。それなのに何故あっさり従う。階級? いや、それだけでは説明がつかない)

 第一次宇宙戦争時の英雄を一言で黙らせ、凛の問いかけを軽くあしらった手腕。

 アランは今まで経験した事がない緊迫した状況に気を引き締めた。

(悪意でも殺意でも闘気でもない。初めて感じるプレッシャーだな)


「質問には答えてくれるのか?」


 司令が静かに頷いた。


「Mr.高木を退出させたのは、凛が会いたくなさそうだったからだよ」

「それだけなのか?」

「君たちは回りくどいね。アメリカではそれだけって聞くのが流行っているのかね?」


 司令が呆れた声で言う。

 アラン達の曖昧な問いかけに嫌気がさしたのだろう。

 今までの会話の傾向から、司令との会話は端的に行った方が良い。

 そう感じたアランは、司令への聞き方を変える。


「流行ってはいない。司令の言葉がストレート過ぎて疑問に思っただけだ」

「ストレートでないとストレスね。端的に言わないと時間が足りなくなるからね。アランは少し話しやすいね。ついでにこちらの要望を伝えていいか?」

「フリージア隊の指揮官は私です。要望があれば私が伺います」


 フィオナ艦長が話に割って入る。

 アランもフリージア隊の指揮官である艦長を無視して、基地司令の意向を伝えられても困る。


「階級とか興味ないね。場を治める器量も無いくせに、出しゃばらないで欲しいね」

「それでも私が指揮官です」

「それなら、そこで聞いてればいいね。内容は聞こえるだろ?」


 司令はフィオナ艦長と全く話す気がないようだ。

 艦長の対応はE.G.の軍人として適切だったといえる。

 だが、司令にとっては、適切な対応では不満足なのだろう。

(艦長は話をする価値はないと判断されたか……こうなったら俺が聞くしかないか……)

 アランは意を決して指令に問いかける。


「要望を聞かせてもらえるか?」

「宇宙で行う反攻作戦に参加する事は知っている。だから補給は行う。だが、2日以内に出て行け」

「出て行けですって?! どういう事ですか?」


 フィオナ艦長が司令に対する怒りをあらわにした。

 一度は黙ったが、出て行けと言われたので、黙り続ける事が出来なかったのだろう。


「出て行けは、この基地から立ち去れって意味だよ。そんな簡単な事も理解出来んのか?」

「貴方の暴言は上層部に報告しますよ」

「君の意見を上層部が聞いてくれるといいね」


 フィオナ艦長が押し黙る。

(うまいタイミングで上層部とのつながりを示唆したな。これでは艦長は黙るしかない。だが、一つだけ気になる点がある)


「なぁ、さい司令」

「何だい、アラン君?」

「どうして2日以内なんだ? 追い出したいなら、今すぐ追い出せばいい」


 今まで全ての発言に対して、明確な理由を述べていた司令。

 だが、2日以内の理由については言っていない。


「深い意味は無いですね。しいて言えば、君達の様な愚鈍な兵士では、補給に2日くらいかかると思ったからですかね。補給は行う約束ですし」


『2日くらいかかると思ったから』……その発言の曖昧さが物語っている。

 司令の発言が嘘であると。

 アランが感じた性格通りであれば、2日かかると断言したハズだからだ。


「分かり易いをありがとう」

「君は本当に面白いね。僕のお仲間に入って欲しいと思うくらいだ」

「なら、仲間に入れてくれ」

「残念ながらその機会はないね。君の様な少年には、出来れば戦争なんて止めて欲しいと思っているけどね」

「いつからファングを壊滅させるのに年齢制限が出来た? 俺はファングを壊滅させる。味方に子供扱いされてもな」

「そうか、それは残念ね。それでは話を終えよう。そこの青年はお湯で戻してあげてね」


 司令がアーサーを指差して冗談を言った。

(何も言わないから気になっていたが、まだ硬直していたのか! 司令の言う通りお湯で戻すか。インスタントラーメンではないけどな)

 隣で固まるアーサーを見て、思わずため息をつきそうになる。


「そうさせてもらうよ。少し固まり過ぎているからな」


 アラン達は指令室から出て、戦艦フリージアへ向かった。

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