新機体受領

 動物園の一件から1週間、イーサンの元に念願の増援と新機体が届いた。

 だが、余計なものまで送られてきた。

 チャリム開発の第一人者ギルモア博士である。

 イーサンの故郷である、<セイヨウ>の最も有名な技術者であり、チャリムのパイロット達が、こぞって彼の手がけた機体を欲しがるほどである。

 イーサンも一流のパイロットであるから、彼が手掛けた機体を欲しい事には変わりがない。

 それでも素直に喜べないのは、ギルモア博士を好ましく思ってはいないからだ。

 出来れば話をしたくはなかったが、指揮官が話を聞かない訳にはいかない。

 イーサンは諦めてギルモア博士から、受領した機体の説明を受ける事となった。


「こちらがイーサン様の新しい機体、リベレスティンです。機動性と格闘能力を中心に強化しております。大気圏内での空力性能を向上させる為の裾付きで御座います。アークライト家のイメージカラーの赤色に塗装も済ませております。とても似合ってますよ」


 ギルモア博士が自慢げに新機体の説明を行った。

(空力性能と言ってはいるが裾付きか……どうせ俺は親の七光りでお前の機体を手に入れたんだよ! 何が似合ってますよだ!)

 イーサンにとって博士の言動や口ぶりは不快であったが、無駄な話をしたくなかったので怒鳴りつけたい気持ちを抑えた。


「説明はよい。いつ動かせる?」

「イーサン様は機体の性能にご興味はないのですか? パイロットなら興味を持つと思っていたのですがね。兵器より、お父上同様に政治に興味がおありですかな?」

「父は関係ない。戦争はステータス比較で戦うものではない。ギルモア博士はチャリム戦をゲームと勘違いしていないか?」

「そこまで平和ボケはしてませんよ。研究者としては性能が全てと言いたいですがね。作った側の立場としては、少しは興味を持って頂きたいですねぇ。兵器はお嫌いですか?」

「そういう事で構わんよ」

「ダリモア様は熱心に聞いてくれましたけどねぇ」


 博士がにやつきながらアマンダの話題を出した。

(父の話だけでなく、アマンダの話まで持ち出すのか、この男は!)

 だが、それでもイーサンは怒りを抑える。

 ここで、騒ぎを起こせばの思うつぼだ。

 イーサンが嫌いなギルモア博士を使って問題を起こす事で、失脚させる腹積もりなのだろう。

(そこまでして俺を政治の世界に引き込みたいのか……だが、その手には乗らん!)


「ダリモア少佐は全てにおいて熱心だ。特に興味がなくても熱心に仕事するだろ」

「これではダリモア様の努力が報われませんな。これなら銀色を撃墜出来ると喜ばれておりましたよ。イーサン様のお役に立ちたいとは、健気ではございませんか?」

「俺は誇り高き第一艦隊の指揮官だ。そういう個人的な感想は受け付けないし、私情も挟まない」

「さようですか。興味を持っていただけず残念ですが、最終調整を進めます」

「そうしてくれ」


 イーサンは新機体の整備に向かったギルモア博士を見送った後、臨時作戦本部に部下を招集した。


 *


 イーサンは部下達が臨時作戦本部に集まったので、上層部からの指令について話を始めた。


「俺は敵の新造戦艦の追撃を止めようと思っていた。奴らはおそらくアメリカ大陸最大の規模を誇る、ロサンゼルスのE.G.軍基地に辿り着いているだろう。正規軍と合流したことで戦力が逆転した」

「それなら、アイオワ州で防衛戦でもするんですかい?」

「更に進軍して領土を広げるのもアリですぜ!」

「バリー、ジェイク! 司令官が話している途中ですよ」


 アマンダが話の途中で発言した古参の部下、バリーとジェイクを注意した。


「いいじゃねえか、お嬢。提案は多い方がいいだろ?」

「そんなにかたっ苦しいとイーサンの旦那に嫌われますぜ」

「黙りなさい! 作戦会議中ですよ!」


 本人も気付いていないが、黙りなさいと注意したアマンダ自身も騒ぎを大きくしている要因である。


「黙るのはダリモア少佐もだ! お前らは黙って話を聞く事も出来んのか?」


 イーサンが注意した事で全員が黙った。

 再び静かになったのを見計らって、イーサンは話を続ける事にした。


「我が部隊にも増援と物資が届いたが、上層部からの司令書がおまけで付いてきた。重要な作戦の陽動の為に、ロサンゼルスの基地にちょっかいを出せって内容だ。増援が来たとはいえ、今回は我らの方が戦力不足だ。生きて帰れる保証はない。お前達を死なせる作戦だ。だから、今回は自主参加でいい」

「イーサン! 言い方を考えてよ! 死なせる作戦って酷いと思わないの?」

「思っているさ。酷い作戦だから酷いと言った。それだけだ」

「そんなんで部隊を纏められると思ってるの? 真剣にやりなさい!」


 アマンダが激怒したが、イーサンは返事をしなかった。

(俺は真剣だ。部下の命に係わる事だから嘘は言えない……)


「いいよ、お嬢。これが俺達がついてきた旦那じゃねぇか」

「軍規でも自主参加でも参加することにゃ変わりねぇよ」

「あなた達……」

「言葉や態度なんてどうでもいいんだよ。俺達は知っているだろう? イーサン・アークライトという男をな」

「イーサンの旦那と一緒に地球に降りると決めた時に覚悟していたさ。二度と故郷には戻れないってさ」

「でも……」

「引けダリモア少佐。俺達ファングは私設軍隊だ。E.G.の職業軍人とは覚悟と志が違うんだよ。その想いを理解しろ!」


 イーサンの一喝でアマンダは黙った。

 ファングはブラック・ダンデライオンを守る為に設立された私設軍隊。

 所属している兵士に職業軍人はいない。

 それぞれがファング以外に仕事を持っている。

 歴戦の戦士であるバリーも本来は医者であり、ジェイクはパン屋なのだ。

 無理やり徴兵されたわけでもなく、それぞれの理想でファングに参加しているのだ。

 E.G.の一般兵士より士気は高い。


「出撃の準備を進めろ!」


 イーサンの号令を受けて、部下たちが出撃の準備に向かっていった。

 E.G.の正規軍の様に足並みは揃っていない。

 だが、志だけはイーサンと一つであったーー

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