デトロイトからの撤退2

「本艦は敵艦の正面を突破し、アイオワに撤退します。それじゃ不満かしら?」


 アランは艦長からの通信に返答せず聞き流す。

 通信士ではなく、わざわざ艦長が通信するなど嫌味ったらしいと思ったからだ。


「チャリム部隊の皆さん。戦艦フリージアは、今から30秒後に最前線に到達します。飛行ルートを送るので、つかまって下さい!」


 凛の通信と同時に、サブモニターに戦艦フリージアの飛行ルートが送られてくる。

 確認すると、敵戦艦の間を通って西方に脱出するルートであった。

 普通に考えれば、ただの特攻としか思えない。

 余程、戦艦の防御力に自信が無ければ考えない作戦である。

 しかも、通過する戦艦につかまって脱出など正気とは思えない。

 一度ミスをすれば、敵のど真ん中に置いていかれるからだ。

 時間があれば作戦の見直しを提案したいが、既に作戦が実行されていて止めようがない。

 仕方なく、友軍と一緒に応戦しながら、戦艦フリージアの飛行ルートに集結した。

 急遽、先頭の敵戦艦が攻撃を止め、戦艦フリージアの進路を阻もうと進路を変え始める。

 敵の旗艦が、こちらの動きに気付いたのだろう。


「このままでは敵艦と激突する! 何とかしろ! 英雄!!」


 いち早く敵旗艦の動きに気付いたカーライル中尉が、アーサーに指示を出す。


「英雄じゃなくて、准尉ですよオリヴァーさん!」

「英雄じゃ無くても、最新鋭機に乗った部隊のエースだろ! 怖気づいたのか?」

「出来ますよ! カリバーンならっ!!」


 アーサーが執拗にまとわりつくイーサン機を無視して、カリバーンを敵旗艦に向けて飛翔させる。

 戦場で目の前の敵を無視して背を向けるのは命取りだ。

 だが、アーサーは一人で戦っているのではない。


「何処へ行くっ、銀色!」


 イーサン機がアーサーを追撃しようとするが――


「はいはーい、坊やの相手はお兄さんだよ」


 カーライル中尉がビームマシンガンでイーサン機の行く手を阻む。


「ふざけるな。宇宙の資源を食いつぶす地球政府の寄生虫どもが! 消しとべっ!」


 イーサン機がカーライル中尉をビームライフルで攻撃するが当たりはしない。

 カーライル中尉は先の大戦を経験してはいないが、アースガバメントの内乱鎮圧で活躍した歴戦の勇士だ。

 敵の指揮官でありエースであるイーサン・アークライトが相手でも、簡単にやられる程弱くは無い。


「残念、無念、当たらんよ! ほらっ、赤の補色は緑だから、俺は天敵かもしれないぜ!」

「なっ……」


 カーライル中尉の軽口にイーサンが絶句する。

 その一瞬の隙をアランは逃さない。

(毎度毎度、間抜けなんだよ! わざわざ通信して隙を作るな!)

 アランがアサルトライフルを的確に当て、イーサン機の体勢を崩す。

 その隙にカーライル中尉のアルダーン・カスタムがイーサン機に近づき、ビームソードを振るう。

 だが、イーサン機の代わりに割り込んだリベレーンVEが斬り裂かれ爆散する。


「俺の身代わりにぃ……未来を担う大切な兵士だったんだぞ!」


 イーサンが叫ぶと同時に、味方の爆発に紛れて後退しようとする。

 だが、アランはイーサン機の行く手をシンセシスー1で塞ぐ。


「銀色がいいなら俺が相手してやる。半分だけだがな」

「今度はリベレーンもどきかっ! まがい物がしつこい!」


 アランは激怒するイーサン機の攻撃を避けながら、イーサンがアーサーを追撃出来ない様にけん制を続ける。


「狙いは旗艦か。そう簡単に戦艦の装甲が破れると思ったか? あの銀色を旗艦から引きはがせ!」


 アーサーのカリバーンが敵の旗艦に辿り着いた事で、イーサンがアーサーの目的に気付く。

 そして、部下にカリバーンを追い払う様に指示を出した。

 チャリムの携帯火力では、簡単には戦艦を落とせないから猶予があると判断したのだろう

 カリバーンを取り囲むように集結を始める敵チャリム部隊。

 だが、アーサーはそのような状況を気にも留めない。

 彼は理解しているのだ。

 今為すべき事は、目の前の敵旗艦を撃沈して、戦艦フリージアの飛行ルートを確保する事だからだ。


「貫ぬけぇぇぇぇっ! トライ・レジェンズ!!」


 アーサーがカリバーンが手にしたトライ・レジェンズを、対艦用の高出力形態であるランスモードに切り替え、敵旗艦のブリッジ目掛けて突き出す。

 トライ・レジェンズの先端からビームが伸びて穂となり、戦艦の耐ビームコーティングを貫通する。

 ブリッジが消滅し沈黙した敵旗艦が、次第に高度を下げていく。


「進路確保。全速前進!」

「チャリム部隊、急いで下さい!」


 フィオナ艦長と凛の通信と同時に、戦艦フリージアが突撃を開始する。

 残りの敵戦艦の砲撃が続く中、E.G.のチャリム部隊が次々に戦艦フリージアに取り付く。

 そして、敵戦艦の間を縫って西方に脱出する事に成功した。

 デトロイトが遠ざかるのを眺めながら、アランは友軍の識別信号を確認したが18機しかなかった。

 隊長のカーライル中尉とエースのアーサーは当然無事だ。

 それは、12人の新兵が殺されたと言う事を意味している。

 軍人になれば戦いは避けられない。

 だが、戦争さえ無ければ、彼らにだって未来があったのだ。

(アイツらが……ファングの奴らが来なければ誰も死ななくて済んだんだ!)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る