第三章 怠惰の国アルカディア

第一話

 ぱちりと目を開く。

 暖かい布団の中、出るのも惜しいが出なければ何もが進まない。

 ぐっと天井に腕を伸ばして筋肉の緊張をほぐす、これが気持ちいいのだ。「くっ」っと声が漏れる。

 窓の外を見るとまだ若干暗い、空が少し青くなってきたころ。不思議に思い壁にかけてある時計を見れば短針も長針も6の方を指していた。待て、早く起きすぎた。

 これじゃみんなまだ寝ているだろうと体を起こし右の方を見てもそこにいるのは、顔を布団にべったりとつけうつ伏せで寝ている快離だけだった。呼吸はできてるのだろうか?

 そんなことはともかくクズもリーダーもいない。こんな時間から朝ご飯を買っているのだろうか?と考えていると机の上でぼうっと光る明りに目が行った。


「つけっぱなしか」


 快離を起こさないよう布団を押しのけてのそのそと机の方へ向かう。そこには毎日クズが付けている日記があった。

 日記をつけているというのは聞いていたことだが見たのは初めてだ。

 人のものを盗み見るのは趣味が悪いが、クズだしいいだろうと思い、目やにの付いた目を擦り明りを近づけた。はっきりとした綺麗な日本語、これでも女性なのだなと感心する。

 上の方には日付、天気、タイトルと、まさに日記の貫禄が出ていた。日付を見るに昨晩書いたことが分かる。不意にエデンに着いたときはちょうど一週間前だったなと思い出す。

 タイトルは「アルカディア」。今いる国、クズの国の名前だ。世界で2番目に大きい。なんといっても国は4つの区域に分かれておりその中の1つの区域でさえも勇の国の何倍とある。というのも国の中にもいくつか町が分かれてあり、それぞれまとめ上げている人たち。日本でいう大臣がいた。

 今いる区域は割と田舎の方、和の雰囲気を感じる町だ。今泊っているこの民宿も畳でできており日本の文化は良いものだと日本人として誇らしくなる。

 と、考え込んでいればいる程時間が無駄に経ってしまう。気づいたら8時、とかは絶対に嫌だからさっさと読み進める。


『今日は皆さんと私の国、アルカディアに来ました。一昨日までエデンにいて順番ということで、私の国に行くことになりました。アルカディアまでは以外に近くあっという間につきました。』


 単調な事がツラツラと書かれている。なんだか背徳感を感じてしまうが一体何故だろう。

 日記の中でも敬語なのかと首を傾げた。先を読んでみるが日記というより手紙のようだ。自分宛っぽくないっ気がするが、そんなことを気にせず読み進める。


『明日は役所まで行って苗字を新たに付けようと思います。』


 そういえばそんなことを言っていたなとまた考え込む。俺たちは基本名前で呼び合っているが普通は苗字がないとおかしいものだ。というか日本の常識はそうだった。

 だが転生したときに好みでつけた名前だけを名乗って生きてきたため、苗字がない状態になっている。だからつけようという魂胆だが……


「名前ってあとから付けれるもんなのか?」


 名前を付けようとクズが言い始めた時からずっと思っていたが普通名前って生まれた時につけるもので、俺等日本人、転生した人たちの生まれた時って言うのはつまり転生したとき。しかも名前はもとからついているのに……なんだかややこしくなってきた。その時が来たらクズに聞いてみようと思う。


『新しく苗字を付ける理由ですがどうも私と和颯さんの名前が一文字違いですごく似ていて呼ぶときに困ってしまいます。そのせいで私クズと呼ばれているのでクズと呼ばれないようにしようと思います。』



 『クズ』と呼ばれていること気にしているのか、なんだか申し訳なくなる。

 そもそも俺と葛楽は名前が近いからこその仲。名前が近くなければ縁すらなかっただろうが……なんだか複雑な気持ちだ。

 そして日記はここで終っている。一日のことを書いていることなのに随分と内容が濃い。充実した一日を毎日送って苦しくならないか心配だ。

 とネガティブなことを考えながらなんとなく前のページをめくっていく。本当に毎日欠かさず書いているらしく綺麗な字は止むことは無かった。

 ぺらぺらとページをめくっていると、なんだか字が濃いページを発見した。

 インクが多く字も汚い。というかこの文字は日本語ではない。見ることが少なく記憶も曖昧で覚えていないが、これは多分この世界の文字だろう。大きな字で乱雑に書かれていた。

 不思議に思いページをまた送ろうとしたがどうやらこれが初日らしい。これ以外に似たページはなかった。

 ため息をついて日記を閉じる。そして明かりをもとの位置に戻していると。


「あれ?だれもいない」

「お、起きたか。いや、起こしたか?申し訳ない」


 後ろを振り返ると夢現なのかおもむろに腕を振り回している。何をしているのだろうか。なんとなく腕を伸ばす。


「おはよ快離、俺がいるぞ」

「あ、かずさ、おはよ……」


 俺の腕を掴むと目は閉じていながらも笑顔になりそう言った。呑気なやつだ。

 快離は俺の腕を引っ張って体を起こすと布団の上に胡坐をかいて座り込んだ。

 目を擦りあくびをしている、まるで小動物のようだ。


「ゆうとかずら……くずは?」

「言い直さなくていい、多分朝ご飯を買いに行ったか、和の雰囲気を感じてるか……分からん」

「そう、いまなんじ?」

「聞いてたか?今は、6時40分くらい……なのか」

「……ねる」

「だらしない奴め」

「かずさもねたら?」

「……そうするか」


 始め以降一度も目を開けずに話していた快離は布団にもぐると、やはりうつ伏せになって顔を横に向けた。俺も開いていたカーテンを閉め布団にもぐる。

 快離の方を向くと小さな寝息を立てて寝ている。がやはりうつ伏せなので見ているこっちは苦しい。


「何時に起きる気だ?」


 なんとなく聞いてみるが返事が返ってこない。まさかもう寝たのか?そうなるとさらに起こしてしまった罪悪感を感じる。

 俺は仰向けになって目を閉じた。

 コツコツと時計が時を刻む音が聞こえる。それと同時に意識が遠くなっていく。


「じゅうじ、くらい」


 そう、眠そうな声が聞こえた。

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