2−4 シークレットゲスト

 拍手が鳴り止まぬ中、僕たちは準備された椅子に座る。座る頃には僕たちが登壇していたキャストに弄られる。


「いやあ、待たせたね。菱木さんと間宮君」


「いやそんな待ってないですよ。ねえ、間宮君」


「はい。クイズとか楽しく見させていただきましたよ」


 お客さん目線で待ってたからそんなに長いとは思わなかった。それにシークレットゲストって出番は最後だからこれくらい待つって事前に台本に書いてあったし。


「二人はクイズどれだけ解けた?」


「俺たち全問正解。なー、みーちゃん」


「はい。僕は実際プレイしていたので。菱木さんは全ルートに出ていたからですよね」


「そうそう。台本分厚かったなー」


 相川さんの質問に答えつつ、お客さんたちが待ちきれないというような熱意を向けているので吉川さんが進行する。誰も彼もFDの情報を一刻も早く聞きたいようだった。


「さて、では浜島プロデューサー。新作についてお話を伺えますか?」


「はい。それではスライドを、どうぞ」


 変わるスライド。出てきたのはタイトルとパッケージイラスト。タイトルは『スターライト・フェローズ〜星の瞬くこの世界で〜』。パッケージイラストには福圓さんの演じるエクレシアちゃんが正面を向いて右手を差し伸ばしている姿と、横目でエクレシアちゃんを見ているメッシーナ、それに後ろ姿のゲイルの弟が描かれていた。


 本当にこういうゲームのパッケージの絵って美麗だよね。アニメイラストに落とし込むのが難しいって話を聞く。一枚絵と動くアニメーションじゃバランスを取るのが難しいって聞く。


「浜島プロデューサー、この三人しか描かれていないということは二ルートしかないんですか?」


「いいえ。二人のルートと本編でもあったような総まとめのルートが一つ、あとは主要キャラクターの短いながらも後日談を想定しています」


「ということはメインは三ルート?」


「そうですね。ボリュームもそう変わらない予定です」


 吉川さんの質問にプロデューサーが答えていく。この辺りは台本に書いてあったので声をあげることはない。お客さんはFDらしい内容に拍手を送っていた。


 今まで攻略できなかったキャラクターが攻略できて、元々のキャラクターも少しとはいえエピソードがある。続編は本当に本編の二年後とかのストーリーだけど、FDだと追加ルートとかちょっとしたおまけがメインらしい。


 でもこの区分けもゲーム会社などによって線引きが曖昧だからごちゃごちゃなことも多いらしいけど。


「キャスト陣に質問ですが、もう収録ってしたんですか?」


「しましたよ」


「俺もした」


「俺も」


「え?わたしまだです」


「俺もまだー」


「僕もまだですね」


 鹿島さんと花井さん、相川さんはすでに収録したみたいだけど、福圓さんも菱木さんも僕もまだだった。メインのメンバーがまだ収録せずに、このゲームにおいてはサブに回る人たちが先に収録しているなんて珍しいかもしれない。


 ゲームにおいてほとんどの場合はメインの人たちが収録してからサブやモブの人が収録するからだ。


「メインの三人はテキスト量がすごく多くて。先に他の皆さんの収録をしてしまったんですよ。アニメ関係での収録のついでで」


「なるほど」


 まだ台本も渡されてないからどれだけの量になるかもわからないんだよね。


 ゲームのメインキャラの台本って辞書みたいに分厚くなるから相当ワード数があるんだと思う。アニメの一話分の台本は薄いノートくらいだけど、ゲームだと状況説明のト書きも多いからゲイルの弟でもそれなりに分厚かった。


 一ルートにしか出ないモブでそれなんだから、メインルートキャラになるとどうなるんだか。ましてや主人公の福圓さんの台本なんて予想もできない。


 それからゲームシステムなど、前作との比較できるような箇所を説明したりしてプロデューサーからのお知らせのコーナーは終わり。となると次は僕たちキャストへの質問だ。


「菱木さんに聞きます。このFDのことはいつ聞きましたか?」


「アニメ化決定と同じ時に続編作りますって事務所に連絡がありましたねー。また助言役としてちょっかい出すのかなーって思ってたらルートを作っていただけるなんて。感無量です」


「ありがとうございます。間宮君は?」


「僕はつい最近ですね。アニメ化の話は聞いていましたけど出られるかわかりませんでしたし。そもそも正式な名前もない役だったので次があるなんて思ってもなくて」


「ゲイルの弟、人気ですよ?ですよね、みなさん」


 吉川さんが観客席に聞くと、拍手が結構大きく返ってくる。


 エゴサーチで知ってたけど、本当に人気だったんだなあ。良かった良かった。


「購入者アンケートで多かったんですよ。『ゲイルの弟のルートは?』とか『攻略したい』って声が多くて。FD自体はこの作品の解答編みたいな感じで作るのは決まってたんですけど、その声を聞いてゲイルの弟ルートの作成も決まった感じですね」


「元々はメッシーナルートだけだったんですか?」


「はい。正確にはメッシーナルートと、エクレシアルートだけにしようと思ってたんです。ただゲイルの弟の裏設定残ってるじゃんとライター陣が気付いて、人気も高いしエクレシアルートと合体させちゃおうと」


「ええ?その二つが合わさっちゃうんですか?」


 プロデューサーの発言に驚いて福圓さんが聞き返していた。僕も知らない情報だらけだ。マイクはONになってるし僕も聞いてみよう。


「本当は僕じゃなくて主人公のエクレシアちゃんを攻略するルートがあったってことですか?」


「ああ、違う違う。エクレシアちゃんの秘密を掘り下げていくルートで、それが本来の裏ルートだったんだけどそれだとボリューム不足になっちゃいそうでね。悪魔合体させたら一ルートに収まりきらなくて結局攻略ルートと裏ルートを分割することになったんだよ」


「へー」


 制作現場にも色々あるんだなあ。


「今回は共通ルートとかはないんですか?」


「ないですね。ゲームを始めたらいきなりゲイルの弟ルートが始まります。その次にメッシーナルートが始まって、裏ルートにいけるようになります。その後に主要キャラの後日談エピソードが解放って流れですね」


 思わない方向からゲームについて深掘りしてしまったけど良かったんだろうか。まだ話したくない情報とかもあるはずだけど、カンペで止められてないからいいんだろう。


 それから収録した三人にゲームの雰囲気を吉川さんが尋ねるが、全員が「砂糖をぶちまく程の甘々シナリオ」と答えた。本当にちょっとした追加シナリオみたいでシナリオの量もそんなに多くないらしい。その中でかなりデレたと答えていた。


 その言葉にお客さんたちは喜んでいた。ルート以上に三人はデレたらしい。


「じゃあまだ収録していない菱木さん。今後の意気込みってありますか?」


「そうですねー。個別ルートに入ったからって他人をおちょくるキャラは保ったまま頑張りたいと思います。アニメでも出番はありそうなんで、どちらも頑張っていきたいです」


「間宮君は?」


「今日改めて僕の役が人気なんだと再確認しました。プレッシャーではありますが、その期待に応えられるようにセリフ一つ一つに魂を込めて頑張りたいと思います」


「……間宮君、本当に高校一年生?」


「はい?」


 吉川さんのその質問の意味がわからなくて首を傾げる。声優としての意気込みを答えたのに何で年齢が関係しているんだろうか。


「登壇中のキャストさん。高校生が一番しっかりしているってどういうことですか?」


「俺たちだって高校生の時は礼儀正しくしてましたよ。大人になってハメの外し方を覚えただけで」


「わたしなんて高校生の頃から暴走特急ですから。今更優等生のフリをしても意味ないでしょう?」


「うん、声優さんってそうだよね。俺もイベントの司会を多くやってるからもう学びましたよ」


 吉川さんは鹿島さんと福圓さんの回答に肩をガックリと落とす。


 役者って本当にどの分野でもこんな感じだから変な感じはしないけど、アナウンサーが本業の吉川さんからすれば僕がまともに見えちゃうんだろうなあ。


 僕も結構マトモじゃないんらしいんだけど、その評価を下したのは一般人の鈴華ちゃんだしなあ。新人の分際で大きな態度を取るわけにはいかないから大人しくしてるだけ、というのもある。


 僕も役者に違わず、ハッチャケたりアドリブしたりするのは好きだ。空気を読んで今はしていないだけで。


「はい。では最後に浜島プロデューサー。まだ発表していないことがありますよね?」


「ああ、はい。キャストさんが最後の挨拶をする前に言わないといけませんね。というわけでスライドお願いします」


 スライドが出た瞬間、ざわめく。


 そこには『FD発売日情報』と大きなフォントで書いてあったからだ。僕も知らない。それに収録もしてないから予想もできなかった。収録して結構間が空いてから発売っていうのがゲームだとよくあるからもしかしたら来年って可能性もある。


 でも他のキャストさんは収録してるんだよな。そうすると案外近いのかも。


 次のスライドが出て、大きな拍手が飛び交った。


「スライドにも書いてありますが、今秋発売決定〜!え、今秋ですか⁉︎」


「はい。鋭意製作中です。アニメの放送中に発売できると思います」


 吉川さんの驚きの声と一緒に僕も驚きながら拍手をする。アニメは夏スタートで二クールだから年末まで放送する。となればアニメをやっている間に発売だ。


 もうすぐという印象かな。今が五月で秋って言ったら約半年後だし。


 この大本命の発表もあって、イベントは大盛況で幕を閉じた。僕たちが締めの挨拶をして退場しても会場はずっと熱を帯びていた。


 控え室に戻って、福圓さんがある提案をする。


「全員で写真撮りましょうよ。SNSに上げる写真欲しいです」


「福圓ちゃん炎上しない?大丈夫?」


「大丈夫ですよー。わたしの本命は一人ですから」


「そりゃそうだった」


 全員福圓さんの本命が宮下智紀さんだと知ってるのって凄いな。


 全員で集合写真を撮って、僕も送ってもらった。福圓さんと同じようにSNSに上げる。もう公式からFDのことは発表していいと言われている。


 SNSに上げた後、冬瀬さんからラインが来ていた。


「今日いるなんて聞いてなかったよ⁉︎」


「シークレットゲストだからね」


 良いサプライズになって良かった良かった。


 あと、鈴華ちゃんにも続編で個別ルートがあると知られて質問責めにあった。収録してないから本当に話せることなんて一切なかったけどね。

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